訪問看護師として働く中で「もう限界かもしれない」と感じることは、決して珍しいことではありません。
孤独な業務や、重い責任、体力的な疲労、そして人間関係のストレスが積み重なると、「辞めたい」という気持ちは自然と芽生えるものです。
それでも「辞めてもいいのか」「他にできる仕事はあるのか」と不安で立ち止まってしまう方も多いでしょう。
この記事では、訪問看護師を辞めたくなる理由から、その気持ちとの向き合い方、辞める前に確認しておくべきポイント、辞めた後のキャリア選択肢まで、段階的に解説していきます。
訪問看護師を辞めたいと感じる理由
訪問看護師として働くなかで、辞めたいと感じる理由はさまざまです。
精神的・肉体的な疲労、孤独な業務、予測不能なトラブル対応など、外からは見えにくい負担が蓄積していきます。
また、管理体制や報酬制度への不満、人間関係のストレスなども、辞めたい気持ちを強める要因となります。
この章では、それぞれの背景を具体的に掘り下げていきます。
精神的・肉体的負担の蓄積
訪問看護師は一人で患者宅を訪問し、すべての対応を自己責任で行うため、孤独感が強まりがちです。
とくに精神的に不安定な患者や家族への対応では、感情的なやりとりもあり、心がすり減ってしまうこともあります。
肉体的にも、毎日の訪問件数が多いと、移動と看護の繰り返しで疲労が限界に達するケースがあります。
孤独な業務でメンタルが不安定に
病院勤務とは異なり、訪問看護では一人で行動する時間が長くなります。
その結果、相談相手がいないまま判断しなければならず、不安感や責任感が過剰になることがあります。
話せる同僚やチームが近くにいないことで、精神的負担が増幅します。
患者対応の責任が重く逃げ場がない
訪問先では、患者の急変時などすべての判断と行動が一人に委ねられます。
ミスが許されない状況の中で、強いプレッシャーを日々感じながら働いている人も多いです。
逃げ場がない状況に追い詰められ、心身ともに疲弊してしまうリスクがあります。
過酷な労働環境
訪問看護師は、時間に追われる中で常に移動しながら対応します。
スケジュールが詰まっている日には、昼食を取る暇もないこともあります。
また、自家用車を使って移動する場合は、運転リスクやガソリン代・メンテナンス費用の負担も悩みの種です。
スケジュールが詰まり休む暇がない
1日4〜6件の訪問をこなすことも多く、各訪問に加えて記録業務や電話対応まで含まれるため、スケジュールが過密になりやすいです。
とくに新規利用者対応や急変対応が入ると、予定が崩れ休憩の時間すら取れない状況になります。
自家用車移動と天候・地理の負担
訪問地域によっては、雪道や坂道など危険な運転を強いられることもあります。
また、慣れない土地への訪問では地図やナビとにらめっこになり、精神的な余裕が削られます。
移動が多い仕事であるがゆえに、体力的・時間的負担が蓄積しやすいのです。
組織・人間関係の問題
訪問看護は個人プレーの側面が強い一方で、チームワークや管理者の支援が不可欠です。
しかし、管理体制が整っていなかったり、指示系統が不明瞭だったりすると、ストレスの温床になってしまいます。
また、少人数の職場では人間関係の摩擦が生じやすく、逃げ場のなさが離職の引き金になることもあります。
管理者の理解不足やサポート体制の欠如
看護師の訪問件数や精神的負担に対して、管理者が十分な配慮をしていないと、現場は疲弊していきます。
「根性論」や「経験でカバーしろ」といった姿勢に悩む訪問看護師も少なくありません。
支援や相談の機会が設けられない場合、孤立を深める結果になります。
チーム内のコミュニケーション不足
情報共有が不十分だと、引き継ぎミスや訪問中のトラブルに発展することもあります。
少人数だからこそ人間関係が密になり、悪化した場合のストレスは非常に大きくなります。
円滑な連携が取れない状況では、モチベーションを維持するのが難しくなります。
報酬や待遇への不満
訪問看護は件数制やインセンティブ制を採用している事業所も多く、収入の安定性に欠ける場合があります。
また、夜間のオンコール対応に対して手当が少なかったり、制度が曖昧だったりする点にも不満を抱く人がいます。
件数制やインセンティブ制による収入の不安定さ
訪問件数に応じて報酬が決まる制度では、体調や天候、キャンセルなどで収入が変動しやすくなります。
また、件数を稼ごうとすると心身に大きな負担がかかり、長期的な継続が難しくなる場合があります。
オンコール対応の手当・仕組みに不満
夜間や休日に電話対応や緊急出動が必要になるオンコール制度では、明確な手当が用意されていない場合もあります。
呼び出しがなかったとしても精神的な緊張は続き、十分な休息が取れない点が問題視されています。
辞めたい気持ちとの向き合い方
辞めたいと感じる気持ちが生まれたとき、まずはその原因と向き合うことが大切です。
すぐに結論を出すのではなく、自分の気持ちを丁寧に棚卸しし、冷静に整理していくことが必要です。
この章では、自分の本心と向き合うための具体的な方法について紹介します。
「辞めたい理由」の棚卸し
漠然と「つらい」「もう無理」と感じていても、何がつらいのかが曖昧なままだと次の判断につながりません。
紙やスマホのメモに、思いつくまま「辞めたい理由」を書き出してみると、原因が具体的に見えてきます。
それによって「環境を変えれば解決するのか」「業務自体が向いていないのか」が整理されます。
家族や信頼できる人への相談
自分一人で抱え込むと、視野が狭くなりネガティブな思考に陥りやすくなります。
家族や友人、看護師の同僚など信頼できる相手に話してみることで、新たな視点が得られます。
人に話すだけでも心が整理され、冷静さを取り戻せることもあります。
「一時的」か「長期的」かの見極め
体調不良や一時的なストレスによって辞めたくなることもあります。
その場合、数日休養を取るだけで気持ちがリセットされることもあるでしょう。
一方で、半年以上同じ悩みが続いているなら、根本的な問題として環境を変える必要があるかもしれません。
自分にとって大切な働き方とは何か
辞めたい気持ちを整理したら、「自分がどんな働き方をしたいのか」も合わせて考えましょう。
ワークライフバランス、安定収入、仲間との連携、スキル活用など、重視するポイントは人それぞれです。
それを言語化しておくことで、次の職場選びでの軸になります。
辞める前に確認しておくべきこと
辞めたいと感じたからといって、すぐに辞表を出すのはおすすめできません。
冷静に準備を進めておくことで、退職後の生活や次のキャリア選びがスムーズになります。
ここでは、退職を決断する前に必ず確認しておきたいポイントを整理していきます。
就業規則と退職手続きの確認
まずは勤務先の就業規則を確認し、退職の申し出が何日前までに必要かを把握しましょう。
事業所によっては、1か月前または2週間前など異なる規定があります。
有給休暇の取得や退職金の支給条件もチェックしておくと安心です。
業務の引き継ぎと記録整理
訪問看護では、引き継ぎ不足が利用者や次の看護師に大きな影響を与えます。
訪問記録やケアプラン、申し送り事項などを整理し、引き継ぎ資料を作成しておきましょう。
可能であれば、後任との面談を設けることでスムーズな移行が可能になります。
保険や年金・税金の整理
退職後は社会保険から国民健康保険や扶養に切り替える必要があります。
また、厚生年金から国民年金への変更や、失業手当の申請にも手続きが必要です。
税金関係では、住民税の支払い方法なども事前に確認しておきましょう。
退職後の生活設計と資金計画
退職直後に収入が途絶えることを見越して、数か月分の生活費を用意しておくと安心です。
失業保険の支給条件や期間を調べ、申請に必要な書類も前もって準備しましょう。
転職までの空白期間を見越して、家計の見直しをしておくことも大切です。
訪問看護師を辞めたあとのキャリア選択肢
辞めたあとの不安を減らすには、自分に合った次の道を見つけておくことが効果的です。
訪問看護で得た経験やスキルは、医療・福祉業界はもちろん、異業種でも活かせる場があります。
この章では、具体的な転職先や働き方の選択肢を紹介します。
他の看護職への転職
訪問看護が合わなかったからといって、看護師そのものを辞める必要はありません。
病院やクリニック、施設看護など、よりチーム体制が整った職場では、精神的な負担が軽減されることもあります。
また、夜勤専門やパートタイム勤務など、ライフスタイルに合わせた働き方も選択可能です。
病院勤務や介護施設勤務
急変対応が複数スタッフで行えるため、心理的な負担が軽くなります。
教育体制が整っているところも多く、ブランク明けの看護師にも向いています。
一方でシフト勤務や夜勤があるため、生活リズムとの調整が課題となることもあります。
夜勤専従やパート勤務で時間調整
子育てや家庭と両立したい人には、パート勤務や夜勤専従といった選択肢もあります。
自由度が高い反面、収入が不安定になりやすいため、ライフプランとのバランスを見極めましょう。
異業種へのキャリアチェンジ
看護師の資格を活かせる仕事は、医療現場以外にも存在します。
企業内看護師、保健師、健診業務、医療機器営業などが代表例です。
人との関わりや健康に関する知識を活かしながら、比較的安定した職場環境で働くことが可能です。
企業看護師・保健師
社員の健康管理や衛生指導を行う産業保健の分野で活躍できます。
夜勤や休日出勤がほぼなく、オフィスワークに近い働き方です。
企業や自治体に就職する必要があるため、採用競争率はやや高めです。
看護師資格を活かした教育職・事務職
看護専門学校の教員や、看護系出版・教材制作など、教育や広報系の職種も存在します。
また、保険会社や医療機関での事務職として、医療知識を活かすことも可能です。
現場を離れたいけど資格は活かしたい、という方に適しています。
フリーランスや副業的働き方
自分のペースで働きたい場合、講師活動やSNS・ブログなどを活用した働き方もあります。
訪問看護の知識をコンテンツ化するなど、情報発信によって収益を得る道も広がっています。
すぐに安定収入を得るのは難しいですが、長期的に副収入を得たい人には向いています。
訪問看護の経験を活かした講師・SNS発信
看護学校や事業所向けに講義を行うなど、経験を教える立場で活かすことができます。
また、SNSやブログで発信することで、看護師コミュニティでの影響力を築くことも可能です。
情報発信を通じてフリーランスとして働く道を開くことができます。
資格スクールや看護相談などの副業
看護師国家試験やスキルアップ講座の講師、副業としての医療ライターなども選択肢です。
訪問看護で培ったリアルな現場経験は、受講者や読者にとって価値ある情報となります。
週末や空き時間を活用して始めることもでき、徐々に本業にシフトすることも可能です。
辞めたあとの後悔・不安との付き合い方
退職後は気持ちが楽になる反面、「あのとき我慢すればよかったのかも」といった後悔や不安に襲われることがあります。
しかし、正しい手順と心構えで辞めた場合、それらの感情とも上手に向き合うことができます。
この章では、後悔を減らし、未来に前向きな一歩を踏み出すための考え方を紹介します。
辞めた理由の再確認
退職後に迷いが生じたときは、当時の「辞めたい理由」をもう一度振り返ってみましょう。
感情ではなく、事実として何が苦しかったのかを書き出すことで、自分の判断に納得がいきやすくなります。
記録を残しておくと、将来の判断にも活用できます。
新たな職場での学びと成長
辞めたからこそ得られる環境の変化や新しい出会いもあります。
訪問看護の経験は、次の職場でも高く評価されることが多いです。
「辞めてよかった」と思えるのは、次の環境で成長できたときです。
キャリアと価値観の再整理
働く目的や生活スタイル、収入面の希望などを改めて整理する時間を取りましょう。
転職エージェントやキャリアカウンセリングを活用するのも有効です。
今後の働き方を考える上で、何を優先したいかを明確にしておくことが重要です。
もし再び看護に戻るならどう働くか
看護師を完全に辞めたとしても、将来戻る可能性があるなら「どう働きたいか」も考えておきましょう。
短時間勤務や在宅医療の補助など、ライフステージに合った柔軟な働き方も存在します。
「自分が主導権を持てる働き方」を目指すことが、次の一歩を支える力になります。
退職をスムーズに進めるためのステップ
退職は感情的になりやすい場面ですが、事前に段取りを押さえることでトラブルを回避できます。
ここでは、円満退職に向けた基本的な流れと注意点を紹介します。
退職意思の伝え方とタイミング
退職の意思は、直属の上司に対して口頭で伝えるのが基本です。
事前にアポイントを取り、感情的にならずに「辞める理由」「退職希望日」を伝えましょう。
繁忙期や人事異動前後などは避け、余裕のある時期を選ぶことも重要です。
円満退職のための段取り
退職理由は個人的な都合や家庭の事情など、角が立たない表現を心がけましょう。
引き継ぎ資料の準備や挨拶回りなど、最後まで責任を果たす姿勢が大切です。
退職後に再び顔を合わせる可能性もあるため、良好な関係を保っておくと安心です。
有給消化と手当・失業保険の整理
退職日を調整することで、残っている有給休暇をすべて使い切ることが可能になります。
また、離職票や雇用保険被保険者証を受け取っておき、ハローワークでの手続きに備えましょう。
離職理由によって、失業手当の支給条件や待機期間が変わるため確認が必要です。
退職代行サービスのメリット・注意点
どうしても言い出せない場合は、退職代行サービスを活用するのもひとつの手段です。
特に精神的に限界が来ている場合は、自分を守る選択として有効です。
ただし、会社とのトラブル防止のため、労働組合系や弁護士監修のサービスを選ぶとよいでしょう。
相談先・支援機関の活用法
「辞めたいけど、どうすればいいかわからない」と感じたときは、専門機関のサポートを活用しましょう。
無料で相談できる場所も多く、一人で抱え込まないことが最も重要です。
あなたの気持ちを整理し、的確な助言をもらうことができます。
看護協会・労働基準監督署
各都道府県の看護協会では、キャリア相談や職場環境に関する相談を受け付けています。
また、労働基準監督署では、長時間労働やサービス残業、パワハラなどの問題について指導や助言が得られます。
匿名相談も可能なため、気軽に利用できます。
無料のキャリアカウンセリング
ハローワークや自治体、民間の転職サービスでも、看護師専門のキャリア相談を行っているところがあります。
自分の強みや希望条件を整理するためのサポートを受けることができます。
今後のキャリアの選択肢を広げるためにも、一度相談してみる価値はあります。
SNSや同業者のコミュニティ活用
X(旧Twitter)やnoteなどでは、訪問看護師の体験談や本音がシェアされています。
似た経験をした人の投稿を見ることで、「自分だけじゃなかった」と安心できることもあります。
オンライン・オフライン問わず、同業者とのつながりを持つことで、次の選択肢が見えてくることもあります。
訪問看護師を辞めたいときは冷静な判断を
「辞めたい」という気持ちを否定する必要はありません。
むしろ、その気持ちが心身のサインであることもあります。
ただし、焦って辞めてしまうと、後悔やトラブルにつながる可能性もあります。
今の自分の状況や気持ちを整理し、必要な準備と情報をそろえた上で、冷静に判断することが大切です。
新たな一歩を踏み出すための選択肢は、意外と多くあるものです。