スクールカウンセラーという仕事は、人の心に寄り添い続けるという大きな責任を伴う職種です。
毎日、悩みや問題を抱える生徒たちの話を聞くことで、自分自身の感情が揺さぶられる場面も少なくありません。
さらに学校内での立場があいまいであることや、教員や保護者との関係性に悩むことも多く、孤独やストレスを感じやすい環境でもあります。
そうした中で「辞めたい」と感じるのは、決して弱さや逃げではなく、真剣に自分の心と向き合っている証拠です。
このページでは、辞めたいと感じる背景や理由、他のスクールカウンセラーの事例、辞める前に考えておくべきポイント、そして辞めた後の進路や準備までを幅広く解説します。
スクールカウンセラーを辞めたい理由
スクールカウンセラーが「辞めたい」と感じる背景には、いくつもの要因が重なっています。
その多くは感情労働の蓄積や対人関係のストレス、そして職場の構造的な問題に起因します。
特に非常勤や掛け持ち勤務といった不安定な雇用形態は、将来への不安や生活の不安定さを招きます。
また、日々の支援活動においても結果がすぐに見えにくく、やりがいや達成感を得づらいという悩みも多く聞かれます。
ここでは、そうした「辞めたい」と思わせる主な理由を具体的に解説していきます。
感情労働による疲弊
スクールカウンセラーは日々、生徒や保護者の深刻な悩みと向き合うことが求められます。
その過程で相手の感情に共感し、寄り添う姿勢が基本となるため、自分の内面にも強い影響を受けることになります。
一見、冷静に対応しているように見えても、心の中ではショックや不安を抱え込んでしまうことも少なくありません。
その積み重ねが「感情労働」となり、やがては精神的な疲労感やバーンアウト(燃え尽き症候群)へとつながってしまうのです。
この節では、感情労働による疲弊の具体的な状況や、その影響について深掘りしていきます。
日々の相談対応による共感疲労
生徒からのいじめ、虐待、家庭問題などの深刻な話を毎日聞き続けると、心が徐々に削られていきます。
相手に寄り添おうとするあまり、自分自身の感情まで揺さぶられてしまう「共感疲労」は、スクールカウンセラーにとって避けがたい課題です。
自分では平常心を保っているつもりでも、無意識のうちにストレスが蓄積し、気づいたときには睡眠障害や無気力感に悩まされるケースもあります。
さらに、相談者との間に適切な距離を保てないと、感情の境界線が曖昧になり、精神的に巻き込まれてしまう危険もあります。
問題が解決しないことへの無力感
カウンセリングは必ずしも短期で成果が出るものではありません。
何度面談を重ねても状況が改善しない、生徒の問題が深刻すぎて打つ手がない、というケースに直面するたびに「自分は無力だ」と感じてしまうことがあります。
特に、家庭環境や経済的問題、虐待など、学校の枠を超えた領域に関する悩みには、十分な支援が難しいのが現実です。
そのたびに、助けられない苦しみや自責の念が強まり、心が折れてしまう原因になるのです。
人間関係の板挟みとストレス
スクールカウンセラーは、生徒を支える存在であると同時に、教員や保護者との協働も求められます。
しかし、それぞれの立場によって価値観や対応方針が異なるため、その間に立つカウンセラーは板挟みになりやすく、精神的ストレスを抱える大きな要因となっています。
自分が正しいと思う支援が、教員や保護者には理解されないこともあり、無力感や疎外感を抱くこともあります。
このような人間関係の摩擦は、辞めたいという気持ちを強める要因となるのです。
教職員との連携に対する不満
スクールカウンセラーの意見が会議で軽視されたり、そもそも会議に参加できないという状況は少なくありません。
また、教員が問題を「担任の責任」として丸投げしてしまい、協力体制が取れないケースも見受けられます。
さらに、相談の重要性やカウンセリングの効果について理解が不足している教職員も多く、「意味があるのか」と疑問視される場面も精神的に堪えます。
そうした中で孤立感が深まり、辞めたいという思いに拍車がかかるのです。
保護者対応の心理的負担
保護者からのクレームや過剰な期待にさらされることも、スクールカウンセラーにとって大きな負担です。
とくに子どもの変化がすぐに見られない場合、「何をやっているのか」「もっと何とかできないのか」と責められることがあります。
また、機密保持の観点から保護者にすべてを説明できない場合もあり、誤解や不信感が生まれやすい点も悩みの種です。
対応のたびに神経をすり減らし、自信を失ってしまう要因になりかねません。
雇用形態と待遇への不満
スクールカウンセラーは非常勤や任期付きでの雇用が多く、職業としての安定性に欠ける点が長年の課題となっています。
また、待遇や福利厚生も一般的な正社員と比べて劣っている場合が多く、経済的な不安を常に抱える状況にあります。
このような不安定な立場が、精神的な負荷を高め、辞めたいという思いを後押ししてしまうのです。
非常勤・任期付きによる将来不安
契約更新が年単位であるため、翌年の雇用が保証されていない状況に置かれることは少なくありません。
任期終了のたびに不安を感じ、計画的な人生設計が難しくなります。
さらに、退職金や昇給制度が整っていないケースも多く、「長く続けるメリットがない」と感じてしまう要因になります。
年齢を重ねるごとに再就職が難しくなるのではという不安も募り、将来の展望が描きづらくなります。
掛け持ち勤務による過重負担
複数の学校を掛け持ちして働いているスクールカウンセラーも多く存在します。
その場合、学校ごとの方針や対応、生徒の状況を記憶・管理しながら勤務先を移動する必要があり、身体的・精神的な負担が大きくなります。
移動時間のロスや、それぞれの学校で十分な時間が取れないことから、信頼関係の構築が困難になるケースもあります。
このような多忙さと成果の見えにくさが重なり、心身ともに疲弊しやすくなるのです。
辞めたスクールカウンセラーの実例
実際に「辞めたい」と思い退職を選んだスクールカウンセラーの事例からは、多くの学びや気づきが得られます。
それぞれの背景や辞めた理由、辞めた後のキャリア選択を見ることで、今まさに悩んでいる人が自分の将来像を描くためのヒントになるでしょう。
以下では、年代や背景の異なる2つの実例を紹介し、辞める前後でどのような心境や変化があったのかを詳しく解説します。
30代女性:共感疲労から企業内カウンセラーへ転職
辞めた当時の心身の状態
30代前半の女性カウンセラーは、非正規で3校を掛け持ちしていました。
日々、複数の生徒から重い相談を受けるうちに共感疲労が蓄積し、睡眠障害や動悸、めまいなど身体症状に悩まされるようになりました。
当初は「自分が弱いだけ」と思い込んでいたものの、限界を迎えて医師の診断で抑うつ状態と判断されました。
職場には相談したものの、制度上の支援は乏しく、自ら退職を申し出るに至りました。
現在の働き方と満足度
退職後は体調回復を優先し、半年間は療養に専念しました。
その後、企業のEAP(従業員支援プログラム)部門に転職し、現在は社内カウンセラーとして働いています。
職場の環境は整っており、相談内容も業務関連が中心で比較的感情の揺れ幅が少ない点に安心感を持っています。
収入面も安定し、心理職としての専門性を維持しながら、自分の生活リズムを取り戻すことができました。
40代男性:教育現場の壁を感じて福祉業界へ転身
スクールから児童福祉への移行の流れ
40代半ばの男性カウンセラーは、10年以上にわたり公立中学校でスクールカウンセラーを務めていました。
子どもたちに寄り添い続ける中で、学校という組織の中では限界のある支援に直面し、「もっと踏み込んだ支援がしたい」という想いが募っていきました。
特に、虐待やネグレクトなど深刻な家庭問題に対応する中で、制度的な限界を痛感するようになり、児童相談所など他分野への関心が高まりました。
資格や経験を活かせる形で児童福祉の世界へ転職し、現在は児童心理司として活動しています。
転職後のやりがいの違い
スクールカウンセラー時代と異なり、福祉職では家庭訪問や関係機関との連携も日常的に行えるため、より包括的で実践的な支援が可能になりました。
もちろん業務量は多くハードではあるものの、自分の関わりが子どもの安全や福祉に直結しているという手応えを日々感じています。
また、組織内に同職種の仲間がいることで、心理的な孤立を感じることが少なくなりました。
「学校で感じていた限界を乗り越えられた」と語っており、キャリアチェンジに対してポジティブな満足感を抱いています。
辞める前に考えるべきこと
「辞めたい」と思ったとき、すぐに退職に踏み切る前に、いま一度冷静に状況を整理することが大切です。
精神的な疲弊が一時的なものなのか、それとも構造的な問題によるものなのかを見極めることで、取るべき選択肢も変わってきます。
また、周囲と対話し改善が可能であれば、現在の職場での継続も視野に入れることができるかもしれません。
ここでは、辞める前に検討しておくべき重要な観点を紹介します。
メンタル不調と一時的な疲弊の見極め
慢性的な疲労や気力の低下がある場合は、まず体と心の状態をチェックすることが第一です。
専門家による診断を受けることで、自分の状態を客観的に把握できます。
抑うつ傾向がある場合は、一時的に休職し回復を図ることで、再び働けるようになるケースもあります。
自分だけで判断せず、心療内科やカウンセラー、EAPなどの支援サービスを活用することが推奨されます。
専門機関の活用
勤務先にEAP(従業員支援プログラム)が導入されている場合は、相談することが可能です。
また、心療内科・精神科では医師の診断に基づいて診断書を出してもらうこともでき、必要に応じて休職制度の適用も受けられます。
地域の精神保健福祉センターや、カウンセリングセンターなどの公的支援も視野に入れてください。
一人で抱え込まず、複数の専門的サポートを検討することが重要です。
職場と話し合いの余地を探る
すぐに辞めるのではなく、まずは信頼できる上司や校長、教育委員会の担当者に相談するという選択もあります。
業務量の調整や学校間の異動、勤務日数の変更など、柔軟な対応が可能な場合もあります。
また、定期的なスーパービジョンやメンタルサポート体制が整っていない職場であれば、その改善を提案することもできます。
話し合いの余地がある限り、退職は「最終手段」として考えても遅くはありません。
教育委員会・校長への相談の方法
具体的な相談内容は、感情論ではなく事実ベースで伝えることが重要です。
たとえば「業務量が多い」「掛け持ちによる移動負担が大きい」など、具体的なデータやスケジュールを示すと納得を得やすくなります。
また、改善策や代替案を提示しながら話すと、相手も前向きに受け止めやすくなります。
記録を残すために、可能であればメールで要点をまとめて伝えるのも効果的です。
辞めた後のキャリアパス
スクールカウンセラーを辞めた後も、その経験や資格を活かせる進路は多く存在します。
心理職としての専門性は、教育現場以外でも十分に通用しますし、異業種でもそのスキルを評価する職場は増えています。
ここでは、実際にどのようなキャリアパスが考えられるのかを具体的に紹介します。
企業内カウンセラー・EAPカウンセラー
企業内で従業員のメンタルヘルスをサポートする「EAPカウンセラー」は、スクールカウンセラーのスキルが活かせる職場の一つです。
対象は子どもから大人へと変わりますが、「傾聴する力」「信頼関係を築く力」は共通して求められる能力です。
また、相談内容は業務ストレスや対人関係などが中心であり、感情の揺れ幅が小さい分、精神的な負荷も比較的少なめです。
安定した就労環境で働きたい方には向いている選択肢といえます。
職場内メンタルヘルス支援の実情
企業では、過労や人間関係のトラブルによる休職が増加しており、専門の相談窓口を設置する動きが強まっています。
その一環として、心理資格を持つカウンセラーが常駐する部署が拡大しており、ニーズは年々高まっています。
面談やストレスチェック、集団研修など、活動の幅も広がっているのが特徴です。
働きながらスキルを磨きたい人にも適した職場環境です。
待遇とキャリアアップの可能性
EAPカウンセラーや企業内カウンセラーは、フルタイム・正社員として雇用されるケースも多く、スクールカウンセラーよりも収入や福利厚生の面で安定していることが多いです。
また、経験を積むことでチームリーダーや管理職、研修講師などへとキャリアアップしていく道も開けます。
心理資格に加えて、産業カウンセラー資格やキャリアコンサルタントの取得がキャリアの幅を広げる手助けとなるでしょう。
長期的なキャリアを描きやすい分野といえます。
医療・福祉分野の心理支援職
スクールカウンセラーで培った心理支援スキルは、医療機関や福祉施設でも求められています。
特に子どもや家族を対象とした支援の経験は、児童福祉施設や医療機関での心理士業務に直結する能力です。
また、行政機関が運営する相談支援センターなどでも、臨床心理士や公認心理師のニーズは高まっています。
支援対象や働き方は変わりますが、心理職としてのやりがいを維持しながら新たな環境で働くことができます。
病院や支援センターでの勤務イメージ
病院では、患者の心理状態を評価し、医師や看護師と連携して治療方針を立てる役割を担います。
特に心療内科・小児科・精神科などでの需要があり、医療現場における心理的サポートの重要性が高まっています。
また、児童相談所や教育支援センターなどでは、面談・家庭訪問・ケースカンファレンスなどを通じて、多職種連携による支援を行います。
医療・福祉分野では、チームで働く意識が強く、孤独を感じにくい職場環境が整いやすいのも特徴です。
心理職以外でスキルを活かす道
スクールカウンセラーの経験は、心理職以外の分野でも活かすことができます。
特に「傾聴力」「対人理解力」「ファシリテーション力」などは、どの業界でも重宝されるスキルです。
転職市場においても、心理職経験者は「人との関わりを丁寧に扱える人材」として高く評価される傾向があります。
この章では、心理職にこだわらないキャリアの選択肢について紹介します。
人事・教育研修などでのカウンセリングスキル活用
企業の人事部門では、社員のメンタルヘルスや職場環境改善に取り組む場面が増えています。
スクールカウンセラーで身につけた「対人スキル」や「聴く力」は、面談・面接・職場調整など多くの場面で活用可能です。
また、新人研修や管理職研修などでの講師・ファシリテーター役として、心理的安全性を高める役割を担うこともできます。
心理職の枠にとらわれず、広く「人を育てる」「支える」分野で力を発揮できる道は多岐にわたります。
辞めるための準備と手続き
実際にスクールカウンセラーを辞めると決めた場合、スムーズに退職し次のステップに進むためには、いくつかの準備が必要です。
契約条件の確認や引き継ぎ資料の作成、退職後の就職活動まで、順序立てて計画的に進めることが成功の鍵です。
この章では、辞める前後にやるべきことを時系列で紹介します。
退職手続き・引き継ぎ準備
まずは雇用契約書を確認し、更新月や退職時期に関する規定を把握しましょう。
退職の申し出は、就業規則に従って適切なタイミングで行うことが重要です。
また、業務の引き継ぎ資料を準備し、生徒の情報や相談経過が適切に共有されるよう工夫しましょう。
後任者や教職員との連携を円滑に保つことで、辞める側・残る側双方にとって安心できる移行が可能になります。
どんな書類や業務整理が必要か
必要な書類には、生徒対応記録・相談日誌・支援計画・保護者対応履歴などがあります。
個人情報の扱いには十分配慮しつつ、後任者がすぐに業務に入れるように配慮したまとめ方を意識しましょう。
加えて、業務マニュアルや校内のルールなど、カウンセラー以外の学校情報も残しておくと親切です。
デジタルデータの場合は、保管場所やパスワード管理方法などもきちんと伝える必要があります。
再就職活動の始め方
辞める準備と同時に、次の仕事への準備も進めておきましょう。
自分の強みや実績を棚卸し、どんな職種に向いているかを整理します。
求人を探す際は、心理職専門の転職サイトや公共職業安定所などを活用すると効率的です。
履歴書や職務経歴書の作成も早めに始め、余裕を持って面接の準備を進めましょう。
職務経歴書の書き方・面接のポイント
職務経歴書では、「どのような悩みに対応し、どう改善に導いたか」を具体的に記載すると効果的です。
また、チームでの連携経験や、関係者との調整・ファシリテート経験も積極的にアピールしましょう。
面接では「辞めた理由」に対して前向きな説明が求められます。
単なる不満ではなく、「自分のスキルを活かしたい」「長期的に安定して働きたい」といった建設的な視点で伝えることが印象を良くします。
辞めたいと感じたときの判断軸
辞めるか続けるかを判断する際には、感情だけでなく自分の価値観や今後の人生設計を基に冷静に考えることが大切です。
一時的な疲労や感情の揺れに流されず、本当に自分にとって望ましい選択かどうかを見極めましょう。
ここでは、そのために意識したい2つの観点を紹介します。
自己分析と価値観の整理
「なぜ辞めたいのか」「どこが苦しいのか」を紙に書き出すことで、自分の本音を客観的に捉えることができます。
理想と現実のギャップがどこにあるのか、自分が求めている働き方や価値観を明確にすることで、判断がしやすくなります。
キャリアカウンセラーとの面談や、自己分析ツールなどを活用するのも効果的です。
「辞めること」が逃げではなく、自分にとって前向きな決断になるように整理してみましょう。
信頼できる人への相談
一人で抱え込まず、信頼できる家族や友人、同僚などに気持ちを打ち明けることも重要です。
話すことで感情が整理され、新たな視点を得られる場合があります。
自分では見えなくなっている部分に気づくきっかけにもなるため、第三者の意見は判断の補助になります。
また、同業者との情報交換によって、同じ悩みを共有している仲間がいることを知るだけでも安心感につながるでしょう。
スクールカウンセラーを辞めたいときは冷静な判断を
スクールカウンセラーの仕事は、人の心に寄り添う尊い職業である一方で、自分自身の心をすり減らしてしまうリスクもあります。
辞めたいと感じることは決して特別なことではなく、多くの人が同じ悩みを抱えているのが現実です。
重要なのは、その気持ちを見て見ぬふりをせず、冷静に向き合い、自分にとって納得のいく選択をすることです。
無理に続けることが正解とは限りません。時には立ち止まることも、前進の一歩になります。