公衆衛生医は、感染症対策や健康施策の立案など、地域社会の健康を守る重要な役割を担っています。
しかし、臨床医とは異なる業務内容や評価基準、行政的な業務の多さなどから、やりがいや将来性に不安を感じて「辞めたい」と悩む人も少なくありません。
特に、現場での医療行為から離れた業務に戸惑い、専門性が活かせていないと感じることも多いです。
この記事では、公衆衛生医として働く中で「辞めたい」と感じる具体的な理由や、辞めた後の進路、その準備方法、実際の体験談までを詳しく解説していきます。
公衆衛生医を辞めたいと感じる理由
公衆衛生医として働く中で「辞めたい」と感じる理由は、臨床とのギャップ、仕事のやりがいの低さ、職場の人間関係など、多岐にわたります。
以下ではそれぞれの原因を細かく掘り下げ、公衆衛生医特有の悩みを明らかにします。
臨床医とのギャップによる違和感
公衆衛生医は患者と直接接することが少なく、日々の業務がデスクワーク中心になります。
臨床医としての経験を活かしたいと考えていた人にとっては、違和感を覚えることが多いでしょう。
また、現場で医療行為を行っていないことによるスキル低下の懸念も重なり、「自分は本当に医師としての役割を果たしているのか」と疑問を感じてしまうことがあります。
患者と接しない日常への戸惑い
公衆衛生医は、保健所や行政機関での業務が主となり、日々患者と向き合うことがありません。
そのため、医師としての達成感や手応えを得にくく、職務に対する満足度が低下する傾向にあります。
「感謝される瞬間が少ない」「命に直接関与している実感が薄い」といった声も多く聞かれます。
現場感覚の喪失
患者対応がないことで、現場での判断力や迅速な対応能力が低下していく不安を抱える人もいます。
これは将来的に臨床復帰を考えたとき、大きな障害になると感じる要因のひとつです。
医師でありながら「医療をしていない」感覚
医師免許を持ちながらも診療行為を行わないことに対し、周囲からの視線や自己認識に違和感を覚えるケースもあります。
「医者なのに何をしているの?」という問いに答えにくさを感じることもあるでしょう。
医療スキルが錆びる不安
臨床から離れて時間が経つと、診察・処方・検査といった基本的な医療行為の感覚が鈍ってきます。
定期的に研修などを受ける機会も少なく、最新の医療知識に触れる場が限られることも、スキルの低下を助長します。
これにより、将来臨床復帰したいと考えたときに大きな壁となる可能性があります。
ブランクが長期化する恐怖
一度公衆衛生医としての業務に慣れてしまうと、臨床現場に戻るタイミングを失ってしまう人が多いです。
特に年齢が上がるほど、再教育や再研修を受けることに対する心理的ハードルも高まります。
臨床復帰に対するハードルの高さ
再就職先が限られていたり、採用側から「ブランクが長い」と評価されることもあり、臨床に戻るのが難しくなるケースもあります。
業務内容にやりがいを感じにくい
公衆衛生医の業務は、多くが文書作成や会議対応、調整業務などです。
目に見える成果が出にくく、患者から直接のフィードバックもないため、モチベーションが維持しづらいと感じる人も多くいます。
成果が見えにくい仕事
施策の効果は数年後に現れることが多く、短期的な成功体験を得づらいことが特徴です。
また、住民の健康に直接関与するという実感も持ちにくいため、達成感を得にくい側面があります。
政策立案よりも事務処理に追われる現実
「医師として社会の仕組みに関わる仕事をしたい」と意欲を持って公衆衛生医になったものの、現実はメール対応や書類仕事ばかりで理想とのギャップを感じることがあります。
行政のルールや制限が多い
公務員である以上、行動には多くの制限がかかります。
たとえば、自由に予算を動かせない、独自判断での企画立案が困難など、柔軟な動きが難しいため、思うような仕事ができないというストレスもあります。
人間関係・組織文化のストレス
公衆衛生医の職場には、医師以外の職種が多数存在します。
保健師や行政職との協働が必要になる一方で、専門性の違いから意見が対立することもあり、人間関係のストレス要因になります。
非医師との協業に対する摩擦
保健師や事務職員など、医療以外の視点を持つ職種との連携では、「医師の判断よりも行政的な判断が優先される」と感じる場面があります。
医師としての意見が尊重されないと感じると、やる気を失う原因になります。
意思決定がトップダウンすぎる
自治体や保健所の組織構造上、意思決定は上層部によって下されることが多く、自分の意見が反映されにくい環境にストレスを感じることもあります。
配属ガチャによるモチベーション低下
公衆衛生医の職場は、配属先によって業務内容や裁量が大きく異なります。
希望していた分野とは全く違う仕事に回されることもあり、モチベーションの維持が難しくなります。
やりたい業務に就けないケース
感染症対策を希望していたにもかかわらず、母子保健や健康教育など、自分の専門性と合わない部署に配属される場合があります。
感染症と健康教育などで業務の質が違いすぎる
感染症対応は緊急性・専門性が高い一方で、健康教育は啓発業務が中心です。
職種の中でこうした業務差が大きく、配属によってやりがいの感じ方も左右されやすいです。
辞めたくても辞められない理由
辞めたい気持ちがあっても、簡単に決断できないのが公衆衛生医という職業の特徴です。
安定した公務員待遇や、将来への不安、家族との生活基盤など、複雑な事情がからみます。
安定した公務員待遇の魅力
公衆衛生医は基本的に地方自治体などの正規職員として勤務するため、身分は公務員になります。
定時勤務や年次昇給、手厚い福利厚生などは、非常に大きな魅力です。
そのため、「辞めたい」という感情が芽生えても、条件のよさから踏みとどまる人も多くいます。
給与・休暇・福利厚生
定期昇給制度や住宅手当、通勤手当、夏季・冬季休暇、育児休業制度などが整っており、生活の安定が確保されています。
地方勤務でも生活基盤を築きやすい
特に地方では公務員医師としての地位は高く、子育てや家族との時間を大切にしたい人には適しています。
医師としてのキャリアへの不安
辞めた場合に次にどのような道に進めるのかが見えないと、決断に踏み切れないものです。
また、「自分がこのキャリアでどの程度の価値を持つのか」が明確でないと、行動ができません。
民間転職の情報が少ない
公衆衛生医に特化した転職支援が少なく、情報収集に苦労するという問題があります。
他分野での自分の市場価値が見えない
「自分の経歴がどう評価されるのか」「どんな職種に適しているのか」がわからず、不安に拍車をかけます。
生活環境・家族との関係
転職により勤務地が変わる場合、引っ越しや家族への影響も伴うため、なかなか踏み切れません。
特に共働きや育児中の医師にとっては、慎重な判断が必要になります。
転職による引っ越しへの抵抗
今住んでいる自治体に慣れ親しんでいたり、子どもの学校や親の介護など、地域に根ざした事情があると、移動は難しくなります。
子育て環境との兼ね合い
公衆衛生医の勤務は比較的規則的で、家庭と両立しやすい環境です。
この点が手放しがたく、転職をためらう要因になります。
辞める前に考えるべきこと
衝動的に辞めるのではなく、冷静に状況を整理して、自分のキャリアを見直すことが大切です。
以下に、辞める前にぜひ行っておきたい準備や確認すべきポイントを紹介します。
自分のキャリア・価値観の棚卸し
何をしているときにやりがいを感じるか、どんな働き方を望んでいるかを明確にすることで、次に進むべき方向が見えてきます。
自身の強みや弱み、今後伸ばしたいスキルを整理しておくことで、転職先の選択肢を広げることができます。
何にやりがいを感じるか
「現場で患者に貢献したい」「研究を通じて社会課題を解決したい」など、自分が満足を感じる瞬間を洗い出してみましょう。
5年後・10年後どうなっていたいか
将来像を描くことで、今の職場がその目標に近づく場なのか、それとも離れているのかが見えてきます。
情報収集と相談の重要性
同じように悩んだ経験のある人の話を聞くことで、視野が広がります。
また、公的なキャリア相談機関や、医師専門の転職エージェントなどを利用することも有効です。
先輩や同期へのヒアリング
辞めた人、残っている人、それぞれの立場からの意見を参考にすることで、より現実的な判断が可能になります。
キャリア支援制度や相談窓口の利用
地方自治体や医師会などでは、キャリア支援を行っている場合があります。
積極的に活用しましょう。
必要スキルや資格のチェック
公衆衛生医としての経験を活かすには、必要な知識や資格を明確にすることが重要です。
それにより、民間企業や大学院、臨床現場などへスムーズに移行できます。
転職市場で評価されやすい要素
マネジメント力、プレゼン能力、データ分析力、調整力などが挙げられます。
これらを職務経歴書などでしっかり表現できるようにしておきましょう。
研修制度や学位取得も視野に
大学院進学(MPHなど)や、短期研修の受講によって、再スキルアップや再方向付けが可能になります。
辞めた後のキャリアパス
公衆衛生医を辞めた後にも、活躍の場は多岐にわたります。
臨床への復帰、民間企業、政策分野、研究職など、経験を活かせるルートを把握し、自分に合った進路を選びましょう。
臨床現場への復帰
「やはり現場で患者と関わりたい」と思ったときは、臨床復帰を目指す選択もあります。
近年ではブランクのある医師を支援する研修制度も整ってきています。
復帰支援プログラムの活用
各地の医師会や医療機関では、復職支援プログラムを提供している場合があります。
見学や短期実習を通じて現場感覚を取り戻す取り組みが増えています。
ブランク明けの臨床順応
復帰後は慣れるまで時間がかかることもありますが、周囲のサポートや事前学習を通じてスムーズな適応が可能です。
民間企業への転職
医療知識と行政経験を併せ持つ人材は、民間でも高く評価されます。
特に製薬・医療機器・コンサルティング会社などでの活躍が期待できます。
製薬会社・医療系ベンチャー
メディカルアフェアーズ、安全性管理、マーケティングなどの職種があります。
疾患や医療制度に関する知識が活かせます。
ヘルスケア系コンサル業界
行政知識や統計データ分析力を活かして、ヘルスケア業界の戦略立案を支援する役割があります。
官僚・政策職としての転身
厚生労働省や県庁、政令市などでの政策形成の道に進む医師もいます。
現場経験を持った人材として、制度設計に大きく貢献できます。
厚生労働省や地方自治体の幹部職
行政に精通した医師が求められており、公衆衛生医の経験はそのまま活かせます。
研究機関や学会関係職
疫学・保健統計の専門性をもとに、研究職や政策アドバイザーとして活躍する道もあります。
大学院・研究職への進学
研究に興味がある人は、MPH(公衆衛生学修士)や博士課程への進学も有望な選択肢です。
MPHや博士号を活かした研究キャリア
国内外の大学院での学位取得により、研究者・教育者として新たな道が開けます。
教育機関での講師職など
看護大学・保健学部などでの非常勤講師や研究員としての勤務もあります。
公衆衛生医の経験を活かす道
辞めたあとでも、公衆衛生医としての経験は無駄にはなりません。
医師としての専門性に加え、行政職としての調整能力やチームマネジメント力は、さまざまな分野で活かすことができます。
行政調整力と多職種連携のスキル
保健師、事務職、地域住民などとの連携を経験してきた公衆衛生医は、組織横断的なプロジェクトの推進に向いています。
企業でも、異なる専門職と連携しながら業務を進める場面は多く、その経験が役立ちます。
論理的思考と情報整理の力
政策立案や報告書作成などで培ったロジカルシンキング、情報を要点にまとめる力は、資料作成やプレゼンの場面で高評価を得やすいです。
地域課題に対する課題解決力
現場で地域住民のニーズをくみ取り、解決策を提示してきた経験は、地域密着型ビジネスや福祉系NPOなどでも重宝されます。
辞めた人のリアルな声
実際に辞めた人たちの体験談を知ることで、自分の決断に役立てることができます。
成功例と失敗例の両方を把握することで、より現実的な判断が可能になります。
辞めてよかったと感じた体験談
「やりたい分野にチャレンジできた」「家庭との両立ができるようになった」など、自分らしい働き方を見つけられたという声があります。
辞めたことを後悔した体験談
「給与が下がった」「職場の人間関係が悪化した」「思ったよりスキルが通用しなかった」という失敗談も存在します。
転職後のリアルな現実と適応
新しい環境に馴染むまでに時間がかかることや、前職との文化の違いに戸惑うケースも多く、慎重な準備が求められます。
まとめ:辞める前に、まず自分と向き合うことが大切
「辞めたい」と感じるのは正当な感情であり、否定すべきものではありません。
重要なのは、その気持ちを丁寧に整理し、情報を集め、準備を整えることです。
公衆衛生医という経験は、民間・臨床・政策・研究と、さまざまな分野で評価される資産です。
後悔のない選択をするために、行動する前に一度、自分と向き合ってみましょう。