公認心理師を辞めたいと感じたら?理由と対処法を解説

公認心理師という職業は、国家資格として社会的信頼もあり、多くの人の心を支える重要な役割を担っています。

しかし実際には、「辞めたい」と感じる公認心理師も少なくありません。

その背景には、精神的な負担、待遇面の不満、人間関係や職場環境、そしてキャリアの不透明さなど、さまざまな要因が存在します。

この記事では、公認心理師として働く中で「辞めたい」と感じたときに、どのように対処すればよいのか、辞めた後のキャリアはどうなるのかを具体的に解説します。

また、実際に辞めた人の事例や、辞めるかどうかの判断材料、準備すべきことなども網羅的に紹介していきます。

公認心理師を辞めたいと感じる理由とは

公認心理師が辞めたいと感じる理由は、単なる「仕事のきつさ」だけにとどまりません。

心の問題を扱う職業であるがゆえに、他の職種以上に精神的ストレスが蓄積しやすく、かつ評価や待遇の不公平感、孤立した環境、将来のキャリア不安など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。

ここでは主な理由を細かく分類し、具体的な背景や構造的な問題点を明らかにしていきます。

精神的ストレスの蓄積

公認心理師は、クライアントの深い悩みやトラウマに日々向き合う職業です。

傾聴や共感を重視する姿勢はとても大切ですが、その一方で、感情を自分の中に抱え込みすぎると、心身に大きな負荷がかかります。

感情移入しすぎてしまうことで、自分も気持ちが引きずられたり、精神的に疲れきってしまうこともあるのです。

さらに、スーパービジョンやチーム支援が不足している職場では、自分ひとりで悩みを抱え込む傾向が強くなり、メンタルの限界を迎えてしまうケースも多く見られます。

クライアントとの関係性による疲労

1人のクライアントに対して長期的に関わる場合、その人の人生の一部を共に背負うような感覚に陥ることがあります。

特に虐待や依存症、家庭内暴力など深刻な問題を抱えたクライアントとの面接では、心理師自身も大きな精神的エネルギーを消耗します。

必要以上に抱え込みすぎることで、夜も眠れなくなったり、自分の感情のバランスを崩してしまう事例も少なくありません。

感情移入しすぎてしまう傾向

公認心理師は、共感する力が強い人が多い職種です。

それが武器である反面、クライアントの辛さや苦しみを自分のことのように感じてしまい、結果としてストレスを引き受けてしまうリスクがあります。

「感情の距離を取る」ことが必要とわかっていても、それが実践できずに自己犠牲的になってしまう人もいます。

共感疲労と燃え尽き症候群

慢性的な共感疲労(コンパッション・ファティーグ)は、心理職に特有の問題です。

人の苦しみを理解し続けることで、自分のエネルギーが枯渇し、仕事へのやりがいを失っていく燃え尽き症候群へとつながることがあります。

「最近やる気が出ない」「仕事がつらい」と感じるのは、すでに共感疲労が始まっているサインかもしれません。

孤立しがちな職場環境

公認心理師は職場で「一人職種」であることが多く、同じ立場の相談相手がいないまま業務を続けることになります。

医師や教員、ケースワーカーなど他職種との連携が求められる現場でも、専門性の違いによって話が通じづらく、疎外感を抱くこともあります。

このような孤立した職場環境では、相談したくてもできない、悩みを共有できないという閉塞感がストレスの原因となります。

スーパービジョン不足

新人や若手の心理師が特に必要とするのが、上司や先輩からのスーパービジョンです。

しかし、現場によっては人手不足などの理由でそれが受けられず、自分の面接技法や判断に自信が持てなくなります。

その不安が積み重なることで、「自分には向いていないのでは」と感じ、辞めたい気持ちが増していきます。

相談相手がいないことの影響

同僚や上司に相談しても心理職の専門的な話が通じない場合、ますます孤独感が強まります。

「誰にも話せない」「理解されない」という思いが続くと、職場での居場所がなくなったように感じ、モチベーションの低下につながります。

経済的・待遇面の不満

公認心理師は国家資格でありながら、待遇や給与面に不満を抱く人が少なくありません。

特に非常勤や契約職で働く人は、収入が安定せず生活に不安を感じやすい傾向にあります。

また、仕事の成果が評価されにくい構造もあり、やりがいのある仕事でも報われている実感を持ちにくいことが、辞めたい気持ちに拍車をかけます。

非常勤雇用の不安定さ

大学や学校、福祉施設などで働く心理師は非常勤のケースが多く、1つの勤務先だけでは生活が成り立たないこともあります。

複数の現場を掛け持ちすることで収入を確保していても、交通費や時間的負担が大きく、疲弊してしまう人もいます。

収入の低さと生活の不安

月収が20万円以下というケースも珍しくなく、生活費や奨学金の返済に困る人も多いのが実情です。

公認心理師の資格取得までにかかった学費や時間を考えると、「見合っていない」と感じる人も少なくありません。

評価制度のあいまいさ

面接件数や報告書の質といった成果が、数値化されづらい業務内容のため、上司や同僚からの評価もあいまいになりがちです。

努力が正当に認められない状況が続くと、モチベーションの低下や不満につながります。

成果が見えづらい業務内容

心理職の成果は「目に見えにくい変化」であるため、周囲にその効果を理解してもらうのが難しいこともあります。

支援のプロセスが長期にわたるケースも多く、すぐに結果が出ないことから、自己評価すら下がってしまう場合があります。

キャリアの不透明さ

公認心理師のキャリアパスは明確ではなく、現場で何年働けば昇進できるのか、どのような経験を積めば次のステップに進めるのかが見えにくいという声が多くあります。

特に独立や研究職、教育職への道が狭く、専門性を深めるよりも「現場を回す」ことが重視されている職場では、将来像が描けずに悩む人が増えています。

専門性を高める機会の少なさ

学会や研修に参加するための費用が自己負担である場合も多く、特に若手の非常勤心理師にとっては参加自体が難しいという状況です。

日々の業務に追われて勉強の時間が取れないことも、スキルアップへの障壁となっています。

研修や学会参加の費用負担

交通費や宿泊費、参加費などすべて自己負担という場合、年に1〜2回しか参加できない心理師もいます。

それにより、業界全体の最新情報や他の現場の実践に触れる機会が少なくなってしまうのです。

昇進・役職の限界

心理職が管理職に昇進できる職場は限られており、たとえば病院では医師、学校では教員がリーダーシップを握っているケースが多いです。

心理師は専門職のままでとどまり、組織の中で重要な意思決定に関われないという不満もあります。

管理職が心理職ではないケース

意思決定者が心理職を理解していない場合、業務量や予算、人員配置において心理師の立場が軽視されることがあります。

その結果、過剰な業務負担や不公平な待遇につながる可能性が高くなります。

辞めたい気持ちが強まったときの対処法

「辞めたい」という気持ちが湧いたとき、すぐに行動に移すのではなく、その感情を冷静に観察し、分析することが重要です。

それは一時的な疲労やストレスから来ているのか、それとも本質的な問題が長期的に積み重なってきたものなのかを見極める必要があります。

感情を記録に残す、フレームワークで整理する、信頼できる人に相談することで、自分の内面を明確に把握できます。

そのうえで、辞めるべきか続けるべきかの判断をすることが、後悔の少ない選択につながります。

感情の波を観察する

感情は日々の環境や体調によって揺れ動くものです。

「辞めたい」と思う日があっても、翌日には少し前向きになれることもあります。

その変化を記録することで、自分の傾向が見えてきます。

感情の波を冷静に観察することで、衝動的な判断を避けることができます。

記録・日記の活用

「今日はなぜ辞めたいと感じたのか」「何が辛かったのか」を簡単でもよいので毎日メモしておくと、自分の感情のトリガーが見えてきます。

1週間、1ヶ月単位で振り返ることで、日常的なストレスと深層の悩みを区別しやすくなります。

紙の日記でも、スマホのメモでも構いません。

大切なのは「見える化」して、感情を客観視することです。

思考の整理に有効なフレームワーク

頭の中で整理しきれないときには、フレームワークの活用が効果的です。

たとえば「5W1H」や「メリット・デメリット表」、「モチベーショングラフ」などは、自分の感情を構造的に整理できます。

紙に書いて視覚化するだけでも、心のモヤモヤが少し晴れていく感覚が得られるでしょう。

信頼できる人への相談

自分ひとりで考え続けていると、悩みが深まり視野が狭くなってしまいがちです。

そんなときは、信頼できる人に話を聞いてもらうことで、気持ちの整理が進むことがあります。

心理師自身が誰かに支えてもらうことは、決して弱さではありません。

他者の視点を借りることは、次の一歩を踏み出す大きな力になります。

カウンセリングの活用

同業者として、カウンセリングを受けることに抵抗を感じる人もいます。

しかし、自分をケアするために第三者に話すことは、極めて有効な対処法です。

感情の整理、行動の選択肢の検討などを冷静にサポートしてもらえます。

同業の仲間と情報共有

他の公認心理師や心理職の仲間と話すことで、「自分だけじゃない」と気づけることがあります。

職場外のネットワークを持っておくと、孤立感も減り、違った視点から問題を考えられるようになります。

実際に辞めた公認心理師のリアルな声

「辞めたい」と感じている方にとって、実際に辞めた人のリアルな声は参考になります。

どんな現場で、何に悩み、どう決断したのか。

そして辞めたあと、後悔はあったのか、それとも新しい道が開けたのか。

具体的な事例を通じて、今の自分の悩みと重ね合わせながら考えてみてください。

教育現場の事例

学校に配置されたスクールカウンセラーとして働いていたAさんは、日々の対応に追われる中で次第に孤立感を強めていきました。

担任や保護者との板挟みに疲れ、次第に「何のためにこの仕事をしているのか」が分からなくなっていったそうです。

役割の曖昧さと負担感

教育現場では心理師の役割がはっきりしておらず、教員の「都合のいい相談窓口」として扱われることもあったといいます。

授業の合間に突然相談が入る、校務分掌に関係ない業務を求められるなど、心理職としての専門性が発揮しづらい環境だったことが、辞職の決め手になったそうです。

医療現場の事例

精神科病院で勤務していたBさんは、医師との連携不足に大きな壁を感じていました。

心理師としての意見が治療方針に反映されることがほとんどなく、次第に無力感を覚えていったとのことです。

医師との連携に感じた壁

医師主導の体制の中で、心理師の介入が形だけになっていると感じたBさんは、職場に居続けることに意味を見出せなくなりました。

患者との関係性は良好だったものの、組織的に心理職が軽視されていると感じたことが、離職を決めた要因です。

福祉・行政の事例

市役所の福祉課に勤務していたCさんは、1人職場で数十件のケースを抱えていました。

業務量が多すぎて一人では対応しきれず、それでも助けを求められない環境に疲弊していったそうです。

一人職場での業務過多

支援対象者との面談、記録、報告書、会議対応、電話応対など、すべてを一人で回す必要があったCさん。

専門的な判断が必要な場面でも相談相手がいないため、常に責任の重さにプレッシャーを感じていました。

結果的に体調を崩し、離職に至ったとのことです。

辞めたあとのキャリアの選択肢

公認心理師を辞めたあとでも、その経験やスキルを活かせる進路は数多く存在します。

心理職として別の道を歩む人もいれば、全く異なる業界に転職して新たなやりがいを見つける人もいます。

辞めることは「失敗」ではなく、自分にとってより良い働き方を模索するための一歩なのです。

心理系の別職種に転身

心理職のなかでも、別の資格を取得したり、異なる分野へシフトすることで、働き方の幅が広がります。

たとえば臨床心理士や産業カウンセラー、家族療法士など、それぞれ異なる専門性を持っています。

また、民間での独立や開業を目指す人も増えています。

臨床心理士・産業カウンセラーとの違い

臨床心理士は大学院修了が前提で、より深い臨床現場に携わることが多いのが特徴です。

一方、産業カウンセラーは企業内でのメンタルヘルス支援や職場改善が中心で、民間資格ながらも活躍の場が広がっています。

民間での開業の難易度と魅力

独立してカウンセリングルームを開設する場合、集客や経営の知識も求められます。

ただし、自由なスタイルで自分の専門を活かせるため、「自分のやりたい支援」ができる魅力があります。

SNSやオンラインを活用して集客し、全国にクライアントを持つ開業心理師も増えています。

心理職以外の職種へ

心理職の経験は、他業種でも評価される場面があります。

特に「傾聴力」「共感力」「対人スキル」は、どんな業界でも重宝されます。

自分の強みを活かしつつ、環境を変えて働くという選択肢も十分にあり得ます。

人事・教育・福祉業界

企業の人事部や研修部門では、メンタルヘルス対策や人間関係の調整に心理職の経験が活かされます。

また、教育支援NPOや福祉施設のスタッフなども、心理的アプローチが求められる現場です。

キャリアカウンセラーなどの関連職

キャリアコンサルタントや就労支援員といった職種では、人の話を聞きながら、将来の方向性を一緒に考える支援が求められます。

心理職としての基盤がある人にとっては、非常に親和性の高い領域です。

辞めるべきかどうか判断するための視点

辞めたい気持ちが強くなったときこそ、立ち止まって冷静に自分の状況を見つめることが大切です。

一時的なストレスなのか、それとも長期的に続いている不調なのか。

自分のライフステージや価値観と照らし合わせて考えることで、後悔の少ない判断につながります。

ライフステージとの整合性

家庭の状況、今後のライフイベント(結婚・出産・育児・介護など)と仕事の両立はできているかを考えることは重要です。

柔軟な働き方を実現するには、職場の制度や周囲の理解がどの程度あるかも確認しましょう。

結婚・出産・介護など家庭とのバランス

フルタイム勤務が難しくなるタイミングでは、業務量や出勤日数の調整が必要になることもあります。

心理職の現場では「一人職場」での業務が多く、代替要員がいないために負担が集中しやすい傾向があります。

長期的な視点で無理のない働き方を選ぶことが、心身の健康にもつながります。

自分にとっての“やりがい”の定義

「人の役に立ちたい」という思いは、公認心理師の多くが持っているものです。

しかし、現場での現実と理想のギャップに苦しむことも少なくありません。

そのズレにどう折り合いをつけるかが、続けるかどうかの重要な判断軸になります。

人の役に立ちたい気持ちとのギャップ

十分に支援できない状況、制度や時間の制約の中で思うように動けない現実。

そんな中で「私は本当に人のためになれているのか?」と疑問を感じることがあります。

その感情を無視せず、改めて自分の価値観と向き合うことが必要です。

辞めると決めたときの準備と注意点

辞めることを決意したら、勢いで行動するのではなく、しっかりと準備をすることが大切です。

手続きの流れ、収入の確保、転職活動など、事前に知っておくべきことを整理しておきましょう。

特に公的機関に勤務している場合は、手続きが複雑になるケースもあるため注意が必要です。

退職の流れと制度面

退職には届け出のタイミング、引継ぎ、社会保険や雇用保険の手続きなど、多くの準備が必要です。

事前に退職マニュアルなどを確認しておくと、スムーズに対応できます。

公務員の辞職時に注意すべきこと

地方自治体や教育委員会などに雇用されている場合、辞職願の提出時期や書式、手続きの流れが厳格に決められています。

また、退職後の再任用制度や共済組合の扱いなど、民間とは異なる点にも注意が必要です。

失業給付の条件や手続き

自己都合退職の場合、給付開始まで待期期間があるため、生活費の備えが必要です。

ハローワークへの申請、離職票の取得、求職活動の証明など、事前準備を怠らないようにしましょう。

転職活動のステップ

辞める前から少しずつ動いておくことが、ブランクを防ぐ鍵です。

情報収集、自分の強みの棚卸し、応募書類の作成など、段階的に準備を進めていきましょう。

自己分析と履歴書作成

これまでどんな支援をしてきたか、どんな強みがあるかを言語化しておくと、面接でも説得力が増します。

心理職の経験を「どのように別の職場で活かせるか」という視点で書くことがポイントです。

エージェントの活用と注意点

専門の転職エージェントに相談することで、自分に合った求人に出会いやすくなります。

ただし、担当者の力量や理解度にばらつきがあるため、複数登録して比較するのがおすすめです。

公認心理師を辞めたいときは冷静な判断を

辞めたいと思うことは、決して特別なことではありません。

むしろ、それだけ真剣に自分の仕事や生き方に向き合っている証です。

感情に流されて即決するのではなく、情報を集めて、自分の価値観やライフプランに合った選択をしてください。

辞めることも続けることも、どちらも「正解」です。

後悔のない未来をつくるために、自分を見つめ、選び取ることが何より大切です。

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