在宅医療は、患者の生活に寄り添いながら医療を提供できる、社会的意義の高い分野です。
しかしその一方で、24時間対応や孤独な判断、精神的な負担により「もう辞めたい」と感じる医師も少なくありません。
本記事では、在宅医療医が直面する課題を深掘りし、辞めたいと感じたときに考えるべき視点や選択肢、そして実際に辞めた人の声や対処法についても紹介します。
あなたが納得のいく判断を下せるよう、冷静かつ多角的に情報を整理してお伝えします。
在宅医療医とはどんな仕事か
在宅医療医は、病院外で医療サービスを提供する医師であり、主に患者の自宅を訪問して診療を行います。
具体的には、慢性疾患や終末期医療を要する患者に対し、定期的な訪問診療や緊急往診を行い、必要に応じて看取りまで担います。
また、訪問看護師やケアマネジャー、薬剤師など他職種と連携しながら地域全体で患者を支える役割もあります。
病院勤務医とは異なり、高度な医療機器を使うことができない環境での判断が求められるため、臨床スキルと生活に即した柔軟な判断力が必要です。
また、患者の家族との信頼関係の構築や、制度・介護面に関する知識も不可欠です。
訪問診療の実際
在宅医療医は1日に10件以上の訪問をこなすこともあり、訪問先は患者の住居や高齢者施設など多岐にわたります。
診療内容はバイタルチェックや投薬管理、医療処置、看取り支援など多岐に渡り、短時間で多くの判断を下す必要があります。
また、訪問中に急変や緊急対応を求められることもあり、スケジュールの柔軟性と迅速な対応力が問われます。
1人の医師が全体の流れを把握しながら診療を行うため、スケジュール管理と現場判断のバランスが重要です。
雨天・積雪などの天候も訪問に影響を与えるため、体力と安全管理の両立も必要となります。
病院勤務医との違い
病院勤務医と異なり、在宅医療医は限られた設備と医療資源の中で診療を行います。
例えば、血液検査や画像診断機器がその場にないため、症状から診断を下す直観と経験が不可欠です。
また、緊急時にも即座に他の医師に相談できる環境が整っていないため、判断ミスが命取りになりかねません。
このような環境での診療は、精神的な緊張が常に続きやすく、孤独感に拍車をかける要因となります。
病棟でのチーム医療と比べて、「自分ひとりで決断を下さなければならない」という重圧が、辞めたいと思う一因になりやすいです。
在宅医療医を辞めたいと感じる主な理由
在宅医療医として働くなかで、多くの医師が辞めたいと感じる理由には、精神的な負荷、24時間対応の体制、業務過多、患者・家族からのプレッシャーなど、複合的なストレス要因が絡んでいます。
特に一人での判断や、看取りの場面に立ち会う頻度の高さは、精神的な消耗につながりやすく、職業としての継続を困難にすることがあります。
また、移動時間の多さや夜間対応など、日常生活への負担も少なくありません。
以下では、その中でも代表的な理由を深掘りしていきます。
精神的なプレッシャーと孤独感
在宅医療では、緊急時の判断や看取りの場面で、自分一人が最終判断を下すことが多く、精神的に強いプレッシャーがかかります。
病院ではチームでのカンファレンスや上級医との相談が可能ですが、在宅医療ではそれが難しく、自分の判断に対して不安を抱えたまま対応することになります。
また、患者の死に日常的に立ち会うため、精神的な負担が蓄積しやすいのも特徴です。
相談できる同僚が周囲にいない孤独な環境が、心理的な限界を招きやすい要因の一つです。
心のケアが行き届かないことから、燃え尽き症候群に陥る医師も少なくありません。
死と日常的に向き合う職業
看取りの場に立ち会う頻度が高く、死をタブーとせず、日常業務の一部として対応せざるを得ないのが在宅医療です。
そのため、患者の死を迎えるたびに感情を抑えて対応する必要があり、自身の感情を外に出す機会がほとんどありません。
家族の感情を受け止める役割も担うため、自分の気持ちを後回しにしてしまう傾向があります。
これが積み重なると、心の疲弊を招き、次第に「この仕事を続けるのは限界だ」と感じるようになります。
死に慣れるのではなく、死に感情が麻痺していく感覚に恐怖を感じて辞めたくなる医師もいます。
支援の少なさと孤独な判断
在宅医療は一人で動くことが多く、チーム医療を支える看護師や薬剤師がいても、最終的な判断や責任は医師にかかります。
特に訪問先で緊急事態が起こった場合、即座に相談できる環境が整っていないことが多く、すべてを一人で背負う状況に直面します。
このような構造的孤独は、病院勤務では感じにくいプレッシャーです。
また、他職種と情報共有がスムーズにいかないことで、「自分ばかりが責任を取らされている」という気持ちが強くなり、離職を考える原因にもなります。
医療ミスへの過剰な自己責任意識も、辞めたいという感情を強めてしまいます。
24時間対応のオンコール体制
在宅医療の特徴のひとつに、24時間365日のオンコール体制があります。
これは患者が夜間や休日に体調を崩した場合でも、医師が対応しなければならないという現実を意味します。
こうした緊急対応は、心身の休息を妨げ、慢性的な疲労感とストレスを招きやすくなります。
特に在宅医療医は、診療だけでなく移動も伴うため、オンコール体制下では一時たりとも心が休まらない状況が続きます。
睡眠不足や家族との時間の欠如により、プライベートとの両立が極めて困難になります。
夜間コールの頻度と生活リズムの崩壊
電話や緊急往診の依頼は夜間にも容赦なくかかってきます。
一晩に何度も起こされることで、日中の業務にも悪影響を及ぼし、生活リズムが完全に崩壊するケースもあります。
それにより、慢性的な睡眠障害や倦怠感、集中力の低下などが生じ、仕事の質にも影響を及ぼします。
生活のすべてを医療に捧げるような状態になり、「自分の人生を生きていない」と感じてしまうことも少なくありません。
結果として「もう限界」「辞めたい」と感じるトリガーになり得ます。
急変時の責任と不安
患者の容体が急変した際、深夜に一人で判断し、医療処置や救急搬送の要否を即決しなければなりません。
その判断が間違っていた場合、命に関わるだけでなく、家族からの厳しい批判に晒されるリスクもあります。
深夜という精神的・身体的に最も疲れている時間帯に、重大な判断を迫られることで、医師としての自信を失うことにもつながります。
誰にも相談できないまま自責の念を抱えることが、心身に深刻なダメージを与えます。
このような連続により、「このままでは自分が壊れる」と感じて退職を決断する医師もいます。
業務量と移動距離の多さ
在宅医療では、訪問件数が多く、1日の大半が移動と診療に費やされます。
長距離の運転や、時間に追われる中での診療が常態化し、体力的な消耗が激しくなります。
また、運転中の事故リスクも常に伴い、仕事に対する不安が増す要因となります。
悪天候や雪道の中での訪問も日常茶飯事で、ストレスの蓄積は避けられません。
業務量に見合わない報酬や評価体系も、モチベーションを下げる一因となっています。
移動距離と時間に圧迫される一日
一人で1日10件以上の訪問を行う医師も珍しくなく、各家庭の場所は離れていることが多いため、効率的なルート設定にも限界があります。
移動だけで1〜2時間以上を消費する日も多く、その合間で診療や説明、書類作成まで求められるため、1日が終わる頃には完全に疲弊してしまいます。
また、患者の急変によってスケジュールが狂うことも頻繁にあり、計画通りに進まないことがさらなるストレスにつながります。
このような働き方に持続可能性を見出せず、辞めたいと感じる医師が増えています。
自由な時間やリフレッシュの機会を確保できないことが、ワークライフバランスを崩壊させています。
体力的消耗と交通事故のリスク
運転中に居眠りや注意力の欠如による事故リスクは、在宅医療医にとって常に身近な問題です。
冬季の凍結路や深夜の暗い道を走る場面もあり、日々の移動が命に関わるプレッシャーとなることもあります。
また、医療機器や資料を車内に積み込む負担も大きく、腰痛や疲労の原因になります。
交通事故が起きた場合、診療だけでなく自分の身や責任問題にも波及し、精神的なストレスが増します。
医療に集中すべき環境が移動によって阻害されていると感じることも、辞めたいという動機の一つになります。
家族や患者からの理不尽な要求
在宅医療では、患者本人だけでなく、その家族と密に関わる必要があり、理不尽な要望や無理な依頼を受けることも珍しくありません。
たとえば、医学的に不可能な延命措置や、即時の対応を強く求められるなど、医師の裁量を無視した要求があることもあります。
また、患者の病状に対して、医師が最大限尽力しても、結果に対する感謝よりも不満やクレームが返ってくることもあります。
このような環境では「自分の医療が無力に感じる」「何のためにやっているのか分からない」と感じやすく、辞めたい気持ちに拍車をかけます。
医療者への敬意や理解が乏しい場合、モチベーションを保つことが非常に困難になります。
制度・報酬への不満
在宅医療には、診療報酬制度の煩雑さや、医師が書かなければならない書類業務の多さが付きまといます。
その割に診療報酬が十分でないと感じる医師は多く、努力や労力に見合わない収入に不満を持つケースが散見されます。
また、制度自体が現場の実情に即していない部分も多く、「なぜこんなに非効率なのか」と疑問を抱きやすい環境です。
特に若い医師や子育て世代の医師にとって、将来を考えたときの経済的不安は辞職の大きな動機となります。
効率化やサポート体制が乏しい現状が、「このままでは続けられない」と感じさせる要因になっているのです。
辞める前に考えるべきこと
「辞めたい」という気持ちが芽生えたとき、すぐに退職を選ぶのではなく、その原因や背景を丁寧に掘り下げることが大切です。
辞める理由が一時的な感情から来ているのか、それとも根本的な問題なのかを見極めることで、将来の後悔を避けることができます。
また、在宅医療を辞めた後に後悔する医師も少なくないため、他者の意見や客観的視点を取り入れた上で判断することが重要です。
ここでは、辞める前に具体的に考えておきたい3つの視点を紹介します。
辞めたい理由の明確化
辞めたいという気持ちを可視化することが、感情の整理に繋がります。
ノートなどに「いつ」「なぜ」「どんな時に」辞めたいと感じたのかを書き出し、自分の本音と向き合うことが第一歩です。
感情的な要因(例:理不尽な要求を受けた直後など)なのか、慢性的な構造的課題(例:制度疲弊やオンコール負担など)なのかを分類します。
可視化したうえで、それぞれの要因が改善可能か否かを検討することで、冷静な判断が可能になります。
問題の種類によっては、配置換えや勤務形態の見直しで改善されるケースもあります。
一時的ストレスか慢性的問題か
仕事で感じる不満が一時的なものか、それとも慢性的な構造によるものかは大きな違いです。
たとえば、繁忙期だけ感じるストレスであれば時期が過ぎれば解決する可能性があります。
一方、制度の未整備や職場風土の問題は、長期的に解消されにくいため、根本的な見直しが必要です。
このように「一過性の負担」か「職業全体に関わる課題」かを冷静に見極めましょう。
それによって、今すぐ辞めるべきか、工夫や改善で乗り越えられるのかの判断材料になります。
解決可能な環境かの見極め
現場の問題が、配置転換や勤務体制の変更で改善可能であれば、退職以外の選択肢も視野に入れられます。
たとえば、訪問件数を減らす、夜間オンコールを他医師と分担する、新人研修の担当を外すなど、小さな調整で精神的な余裕を生み出せる可能性があります。
また、外部支援を活用することで、負担を軽減できるケースもあります。
「辞める」こと以外にも道があると理解することで、自分の選択に納得感を持てるようになります。
退職は最後の手段として、まずは自分の職場環境に変化の余地があるかを見つめ直してみましょう。
医師仲間や支援団体との相談
辞めたいという思いを一人で抱えると、判断が感情的になりやすくなります。
そんな時は、同じ立場の医師仲間や、第三者の支援団体に相談することで、冷静な視点を得ることができます。
自分の悩みを言語化し、外に出すだけでも心理的な負担が軽減される効果があります。
また、経験者からの具体的なアドバイスや、現場の工夫事例を知ることもモチベーションにつながることがあります。
孤立感を感じている人ほど、誰かとつながることで次の一手が見える可能性が高まります。
相談先のリストと特徴
相談相手としては、勤務先の同僚医師、元同僚、地域の在宅医療ネットワーク、医師会、メンタルヘルス支援団体、産業カウンセラーなどがあります。
特に医師会や自治体が設けている相談窓口では、匿名での相談やセミナー参加も可能な場合があり、心理的なハードルが低くなっています。
また、民間の医師向けキャリアコーチングサービスを活用すれば、専門の相談員が個別に状況を分析し、選択肢を提示してくれることもあります。
一人で抱え込まずに、外部との接点を意識的に持つことで、視野が広がり、より冷静な判断ができるようになります。
定期的に悩みを話せる場を確保しておくことが、辞めたい気持ちの暴走を防ぐカギとなります。
自分の医師像の再確認
辞めたいという気持ちが強くなった時、自分がなぜ医師になったのか、何にやりがいを感じていたのかを振り返ることが大切です。
初心や信念を思い出すことで、今の悩みとの距離感が見えてきます。
在宅医療で得られるやりがいが過去には確かにあったのか、それとも最初から合っていなかったのか、内省の時間を持つことが重要です。
医師という職業の中で、在宅医療という働き方が本当に自分に適しているかを見極める視点にもなります。
その結果として、「もう一度挑戦したい」と思えるかもしれませんし、「別の道へ進もう」と納得できる判断にもつながります。
在宅医療医を辞めた後のキャリアパス
在宅医療を辞めた後、どのような道に進むのかを考えることは非常に重要です。
医師としてのスキルや経験を生かしながら、自分に合った働き方を見つけることで、より納得感のあるキャリアを築くことができます。
在宅医療に特化した経験は、多くの領域で応用可能であり、選択肢は思っているよりも広いことを知ることが希望になります。
ここでは、辞めた後に進める代表的な選択肢を紹介します。
外来中心の勤務医
病院やクリニックでの外来中心の勤務は、スケジュールが予測しやすく、プライベートと両立しやすいというメリットがあります。
オンコールがない、または少ない勤務先も多く、在宅医療での疲弊から回復するのに適した働き方といえるでしょう。
また、継続的に患者を診ながらも、精神的・体力的な負担が比較的軽いため、再スタートを切りやすい領域です。
地域密着型のクリニックであれば、在宅医療経験を生かして患者や家族との関係構築にも強みを発揮できます。
医師としての役割を維持しながら、働き方の質を改善したい方に適しています。
産業医・健診医
産業医や健診医は、時間に追われず、比較的落ち着いた環境で働けるのが魅力です。
定時勤務で残業がほとんどなく、ライフスタイルの再構築がしやすいという点で人気があります。
特に、企業内産業医であれば社員との面談や健康管理業務が中心となり、医療判断の負担は軽くなります。
在宅医療のような緊急対応がなく、身体的・精神的な安定を求める医師には適した職場です。
また、予防医療やメンタルヘルスの知識を深めることができ、将来的なキャリアの幅も広がります。
教育・研究職
医学部や看護系大学での教員、研究機関での研究者としての道もあります。
臨床から離れてアカデミックな視点で医療に携わることができ、在宅医療での経験は教育現場で貴重な実例となります。
現場での実践知を次世代に伝えることは、自身のキャリアを客観的に見つめ直す良い機会にもなります。
また、研究活動を通じて、在宅医療制度の改善や政策提言に関わることも可能です。
社会的な影響力を高めたい方には、有意義な選択肢となるでしょう。
他医療領域への転職
在宅医療以外にも、医師が活躍できるフィールドは多岐にわたります。
緩和ケアや地域包括支援センター、行政医療、医療系ベンチャー企業など、新たな活躍の場を探すことで、やりがいや適性の再発見につながる場合があります。
特に、在宅医療で得た患者や家族とのコミュニケーション力、地域との連携力は、他分野でも非常に価値の高いスキルです。
医師免許を活かしつつ、働き方や職務内容を見直すことで、長期的に満足度の高いキャリアを構築することが可能です。
自分が「どんな社会課題を解決したいか」「どんな働き方をしたいか」という観点から、柔軟に選択肢を広げていきましょう。
緩和ケアや地域包括支援センター
緩和ケア病棟では、在宅での看取り経験が大いに生かされます。
患者や家族への寄り添い方を熟知しているため、より質の高いケアが提供でき、やりがいを感じやすい分野です。
また、地域包括支援センターでの勤務では、医師として地域の福祉や医療を支える活動に携わることができます。
行政と医療の中間に立つ役割として、制度設計や地域課題の解決に貢献することも可能です。
現場の疲弊から一歩離れて、新たな視点で医療に関わることができます。
医療系ベンチャーや行政職
医療現場の課題をテクノロジーで解決しようとする医療ベンチャー企業では、現場経験者である医師の知見が非常に求められています。
たとえば、電子カルテ開発や在宅医療支援アプリの設計など、開発に関わることで間接的に現場改善に貢献できます。
また、厚生労働省や自治体の医療政策担当者として働けば、制度そのものを変えていく立場に立つことも可能です。
制度に不満を感じていた医師こそ、その問題にアプローチする当事者になれる可能性があります。
「変えられない」と嘆くだけでなく、自分が変える側に回るという選択肢もあるのです。
辞めたいと思ったときの対処法
辞めたいと感じたときにすぐに行動するのではなく、まずは冷静に現状を把握し、心身の健康を回復させることが大切です。
感情が高ぶっているときは、判断が偏ったり視野が狭くなったりするため、意識的に自分を整える時間を設けましょう。
ここでは、在宅医療医が辞めたいと感じたときに取るべき具体的な対処法を紹介します。
書き出し・自己分析
気持ちが整理できないときには、紙やスマートフォンに思っていることをすべて書き出してみることが効果的です。
辞めたい理由、辛いと感じた出来事、嬉しかった瞬間などを自由に記録することで、心の整理がしやすくなります。
書くことで自分の本音が見え、何が一番の原因なのかがはっきりしてきます。
また、日記のように日々継続して書き留めることで、自分の感情の波や傾向にも気づけるようになります。
可視化することで、感情に支配されず、論理的に判断できる力が戻ってきます。
小休止の活用
すぐに辞めるのではなく、有給休暇や休職制度を使って、一度現場から距離を取るのも有効な方法です。
特に長期的な疲労やストレスがある場合、2〜3週間程度の休養を取るだけでも、心身がかなり回復することがあります。
また、離れることで自分が本当に何をしたいのかを客観的に考える時間を確保できます。
「辞めたい」ではなく「続けるかどうかを考えるための休養」と捉えることで、選択の幅が広がります。
上司や同僚への相談を通じて、前向きな小休止ができるように調整しましょう。
第三者視点の導入
自分一人の視点だけでは判断に偏りが生じやすいため、コーチングやカウンセリングの活用も視野に入れましょう。
特に医師専門のキャリアコーチや、EAP(従業員支援プログラム)などを利用すれば、客観的かつ専門的なアドバイスが得られます。
また、家族や信頼できる友人など、医療の外にいる人と話すことで、まったく違う視点に気づけることもあります。
第三者の存在は、自分の心のバランスを保つうえでも非常に重要な存在になります。
「一人で解決しようとしない」ことが、長く働く上での知恵ともいえるでしょう。
実際に辞めた在宅医療医の体験談
在宅医療の現場から離れた医師たちは、どのような思いで辞め、その後どのようなキャリアを歩んだのでしょうか。
実際の体験談を知ることで、自分自身の判断材料を増やし、将来像を描きやすくなります。
ここでは、辞めてよかったと感じたケースと、辞めたことを後悔したケースの両方を紹介します。
転職後に満足した事例
40代女性医師Aさんは、在宅医療に7年間従事していましたが、オンコール体制と心の疲弊により退職を決意。
現在は健診クリニックに勤務し、定時で帰れる生活を送りながら、家族との時間も大切にできるようになったそうです。
「やりがいはあったけれど、自分を犠牲にしすぎていた」と振り返り、今は心身ともに安定した日々を過ごしているとのこと。
また、在宅医療での経験は問診や患者対応に活かされており、転職後の職場でも高評価を得ています。
このように、自分に合った働き方を見つけ直すことで、医師としての満足度を高めた例です。
後悔した事例
50代男性医師Bさんは、理不尽な家族対応や制度疲弊により勢いで退職。
その後、病院勤務に戻りましたが、在宅医療と比較してチーム制に馴染めず、業務の分業体制にストレスを感じるようになりました。
また、患者との距離感が遠くなったことで「自分の医療が届いていない」と感じ、辞めたことを後悔していると語っています。
一時の感情で判断せず、もっと相談しながら慎重に検討していればよかったとも振り返ります。
このように、転職後の環境が必ずしも理想通りとは限らないため、熟考が必要です。
辞めずに続けるための工夫
「辞めたい」と思っても、環境を変えたり働き方を見直すことで、今の仕事を続けられる可能性もあります。
無理をし続けるのではなく、持続可能なスタイルにシフトすることで、やりがいを再発見できる場合もあります。
以下の工夫を試すことで、在宅医療を続けながらも心身の負担を軽減することができます。
業務の分担と支援体制の見直し
看護師やケアマネジャーとの情報共有を強化し、医師が全責任を背負わない体制をつくることが大切です。
たとえば、事務作業や報告書作成の一部を分担したり、緊急対応の体制を複数人で構築したりすることで、負担が軽減されます。
ICTの導入や、クラウド型の記録共有なども有効です。
孤立せず、役割を明確にして働くことで、プレッシャーを分散させることができます。
職場全体の意識改革も必要であり、リーダーや管理者との対話を通じて環境改善を図りましょう。
プライベートとのバランス調整
週に1日は完全に業務から離れる日を設ける、趣味やリラックスタイムを確保するなど、意識的に自分の時間を作ることも重要です。
また、家庭との時間を大切にすることで、医療現場でのストレスも軽減されやすくなります。
小さな気分転換や、1泊2日の旅行なども、心の回復に効果があります。
「医療だけが自分の人生ではない」という感覚を持つことが、長く働き続けるための秘訣です。
バランスを整えることで、辞めたい気持ちが落ち着き、再び前向きに仕事に向き合える可能性があります。
在宅医療医を辞めたいときは冷静な判断を
在宅医療の現場は、やりがいが大きい一方で、過重な責任や孤独、制度上の課題などが重なり、辞めたいと感じる医師も少なくありません。
しかし、衝動的な判断ではなく、冷静に自分の気持ちと環境を見つめ直すことが重要です。
原因を明確にし、相談先を活用し、さまざまな選択肢を知ることで、納得のいく決断ができるようになります。
辞めるにしても続けるにしても、自分自身の人生を尊重し、後悔のない選択をしていきましょう。
そして、医師としてのキャリアがどのような形でも、必ず誰かの役に立てることを忘れないでください。