認知行動療法士を辞めたいと感じたら?理由と対処法を解説

認知行動療法士として働く中で「辞めたい」と感じる瞬間は、決して珍しいことではありません。

他人の心に寄り添い続けるという役割は大きな責任を伴い、時には自分自身の心をすり減らしてしまうこともあるでしょう。

また、認知行動療法という科学的な手法ゆえの厳しさや、成果が見えにくいという特性もストレスの要因になります。

本記事では、認知行動療法士を辞めたいと感じる理由を明確にし、それに対する判断基準や対処法、辞めた後の進路などを体系的に解説します。

自分の気持ちを整理し、後悔のない選択をするための材料としてご活用ください。

認知行動療法士を辞めたいと感じる主な理由

認知行動療法士が辞めたいと感じる背景には、心理的負荷や待遇面、職場環境の問題など多様な要因が存在します。

とくに感情労働による心の摩耗や、成果が見えにくいことによる無力感、また職場での孤立感がストレス源となることが多いです。

さらに、資格制度や雇用形態に対する不満、将来への不安なども辞職を考えるきっかけになります。

以下ではそれらの具体的な背景を詳しく掘り下げていきます。

心理的負荷と燃え尽き症候群

クライエントの抱える深刻な悩みに日々向き合い続ける中で、支援者自身が精神的に疲弊してしまうことがあります。

とくに、何ヶ月・何年と関わっても目に見えた変化が見られない場合、無力感や無意味感が強まる傾向にあります。

支援に意義を見出せなくなってしまうと、仕事へのモチベーションも急激に低下しがちです。

その状態が長く続くと、燃え尽き症候群に陥り、仕事を続けること自体が困難になるケースも見られます。

感情労働の積み重ね

常にクライエントの感情に寄り添い、配慮を求められる認知行動療法士の仕事は、高度な感情コントロールが必要です。

そのため、自身のストレスや疲労に気づくことが遅れやすく、知らず知らずのうちに心のエネルギーを消耗していきます。

「笑顔でいなければならない」「共感を示さねばならない」という暗黙のプレッシャーもまた、負担となります。

感情を仕事で使い続けると、私生活にまで影響が出ることがあります。

支援者の孤立感

チームで動いているように見えて、実際は1対1での対応が中心になる認知行動療法士の現場では、孤立感を抱えることも多いです。

上司や他職種からの理解が十分でない場合、自分の仕事の意義や方法が正しく評価されず、やりがいが削がれることがあります。

同じような職種の仲間が少ないと、相談や情報交換の機会も乏しく、悩みを抱え込んでしまう原因にもなります。

孤立感は徐々にストレスを蓄積させ、辞めたい気持ちを強める要因となります。

待遇・制度面の課題

認知行動療法士は高い専門性を持つ職種ですが、その待遇がそれに見合っていないと感じる人も多いです。

特に、資格更新や研修にかかる費用と時間的負担が重く感じられます。

また、契約社員や非常勤職員として雇用されるケースも多く、将来的な安定性に不安を抱く人も少なくありません。

制度上の限界が、職業としての継続意欲を削ぐことにつながっています。

資格更新・研修コスト

専門職である以上、最新の知見や技法を学ぶことは欠かせません。

しかし、それらの学習機会には金銭的・時間的コストがかかり、現場で忙しく働く療法士にとっては大きな負担です。

学会や研修が休日開催であることも多く、私生活との両立が難しくなるケースも見受けられます。

「学び続けなければならない」というプレッシャーが、心の負担になっていることもあります。

給与・雇用の不安定さ

常勤職で安定した雇用環境を得られる機会は多くなく、契約更新を毎年意識しなければならない状況が続くことがあります。

非常勤や嘱託職員で働くケースでは、昇給がほとんどない、福利厚生が不十分などの問題も浮上します。

また、公認心理師との職域の違いが不明確な職場では、自分の業務が過小評価されることもあります。

これらの環境は、長期的に働くモチベーションを下げる大きな要因となり得ます。

辞めるべきか迷うときの判断基準

辞めたいという気持ちが生じたとき、それが一時的な疲労によるものなのか、根本的に仕事が合っていないのかを見極めることが重要です。

一時的な感情で辞めてしまうと後悔につながる可能性があるため、自身の状態を多面的に確認する視点が必要です。

心身の状態、価値観のズレ、将来への希望の有無などを冷静に評価することで、納得のいく判断ができるようになります。

以下ではそのための具体的なチェックポイントを紹介します。

セルフチェックリスト

自分自身の状態を確認するためには、具体的な兆候やサインに注目することが大切です。

睡眠・食欲・気分の変化や、日常業務に対する反応など、身体的・精神的変化の兆候は無視できません。

また、仕事への違和感や情熱の低下といった心理的反応も判断材料になります。

下記のチェック項目に該当するかを確認することで、自分の現在地を客観的に知るきっかけになります。

心身の症状

・朝起きるのがつらく感じる

・食欲が減り、食事が楽しめない

・疲れが抜けず、休日も休んだ気がしない

・胸の苦しさや動悸、不安感が頻繁に現れる

業務への違和感

・クライエントとの面談が苦痛に感じる

・仕事をしても達成感が得られない

・同僚や上司との会話を避けたいと思う

・書類作成や記録が極端に面倒に感じる

辞めたあとの進路・キャリアの選択肢

辞めたいと思ったとき、次の道が見えないことが不安を増幅させる原因になります。

しかし認知行動療法士としての経験は、さまざまな分野に応用可能です。

心理職の他分野に移る方法もあれば、異業種への転職、フリーランスとして独立する選択もあります。

自分の強みや志向に合った新しい道を見つけることが、心の安定とやりがいの回復につながります。

心理職としての別分野

認知行動療法士のスキルは、教育・産業・福祉などの他領域でも求められています。

特に、対人援助職におけるコミュニケーション能力や問題解決力は高く評価される傾向にあります。

心理支援の知見を活かし、働き方を変えることで自分らしいキャリアを再構築することが可能です。

教育領域

スクールカウンセラーとして教育現場で働く選択肢があります。

子どもたちの発達や適応支援に関わる仕事はやりがいが大きく、土日休みなど労働条件も安定しやすい傾向にあります。

教育委員会の採用試験を通じて公的な立場で働くケースが一般的です。

「予防的支援」に関心がある方には適したフィールドです。

産業領域

企業内で従業員のメンタルヘルスを支援する役割もあります。

産業カウンセラーやEAP(従業員支援プログラム)提供者としての活動が代表的です。

ビジネスとの両立に悩む人々を支援するポジションとして、近年ニーズが高まっています。

人事部門との連携や経営理解も必要となるため、より広い視野が求められます。

異業種での転職

心理職から一転して異業種に飛び込む選択も十分に可能です。

とくに人材・福祉・行政関連など、人を支える仕事ではその経験が活かせます。

また、文章力や話す力を活かして、講師・ライター・コンサルタントなどの道を選ぶ人もいます。

自分の経験を「資源」として捉え、変換していく視点が重要です。

人材業界・福祉・行政

人材紹介やキャリアアドバイザーなど、対人支援をベースとした仕事は心理職の経験と親和性が高いです。

また、福祉施設の職員や行政機関での相談員といったポジションも、傾聴力や支援スキルを活かせる領域です。

人に寄り添う力は、分野を超えて重宝される武器になります。

安定性や制度の整った働き方を望む方にとって、有力な選択肢です。

ライター・講師・コンサル

心理知識を活かして文章を書く心理ライターや、専門知見を伝える講師職も注目されています。

企業向けの研修講師や、オンライン講座を提供するコンサルタントとしての道も開けます。

自分の体験を「商品」に変えることができれば、働く場所や時間を自由にできる可能性があります。

ただし収入の安定性を確保するまでには一定の努力が必要です。

辞めたいときに取るべきステップ

辞めたいという気持ちが芽生えたら、いきなり退職を決断するのではなく、段階を踏んだ準備が不可欠です。

心身の健康状態をチェックし、誰かに相談することで客観的な視点を持つことも大切です。

転職活動や経済的準備を並行して進めることで、安心して次のステップに踏み出せます。

以下ではその具体的なプロセスを見ていきましょう。

準備段階でやるべきこと

辞めたい気持ちが強まってきたら、まずは現職の整理と退職準備をスタートさせましょう。

退職時期の調整や、有休の活用、引き継ぎ計画などは周囲との関係性を損なわずに辞めるために重要です。

転職活動も早めに動き出すことで、気持ちにも余裕が生まれます。

特に職務経歴書の作成や面接準備は、思いのほか時間がかかる作業です。

退職時期の調整

急な退職は職場に迷惑をかけるだけでなく、自己評価を下げてしまうリスクもあります。

円満退職のためには、2〜3ヶ月前には上司に相談を始めるのが理想です。

有休を計画的に取得して心身を整えることも意識しましょう。

引き継ぎ資料の作成や後任への説明も、誠意を持って対応することで、後味の良い退職につながります。

転職活動の開始

自己分析を通じて「何が嫌だったか」「次に何を求めるか」を明確にし、応募先の選定に活かします。

職務経歴書には成果や強みを具体的に記載し、面接では辞めた理由をポジティブに伝える練習を重ねましょう。

転職エージェントの活用も有効で、専門職に理解のある担当者と出会えれば強い味方になります。

業界特化型エージェントを活用すれば、心理職からの転職事例にも詳しく対応してくれるでしょう。

支援制度の利用

心身の不調を感じたときは、専門的な支援制度を積極的に活用することが大切です。

ひとりで抱え込まず、医療・公的機関・家族と連携しながら問題を乗り越える準備をしましょう。

ここでは、利用可能なサポートについて紹介します。

メンタルヘルスのサポート

職場に産業医やEAP(従業員支援プログラム)がある場合は、早めに活用しましょう。

外部の心療内科にかかるのも、心の不調を可視化し、環境を変えるための第一歩となります。

精神科医による診断があれば、病休や就労調整なども検討できます。

メンタル面に限界を感じているなら、まずは体調の回復を最優先にしてください。

家族やパートナーとの連携

辞めたい気持ちや将来の不安は、家族にも影響します。

早い段階で相談し、金銭面・生活面でどのようなサポートが必要かを共有することが重要です。

家族の理解と支えがあることで、心の負担は大きく軽減されます。

自分一人で決断しようとせず、信頼できる人と一緒に考える時間を持ちましょう。

辞めた人の実例とその後

実際に認知行動療法士を辞めた人たちの体験談は、進路を考えるうえでの大きなヒントになります。

それぞれが抱えていた悩みや背景、辞めた後にどのような道を歩んだのかを知ることで、自分の将来像を具体的に描けるようになるでしょう。

成功例だけでなく、後悔や再挑戦の話にも学びがあるものです。

以下では3名のケースを紹介します。

Aさん:福祉施設へ転職

Aさんは精神科病院で認知行動療法士として勤務していましたが、業務量の多さと管理職からの評価の低さに悩んでいました。

燃え尽きる前に行動しようと、相談支援専門員の資格を取り、福祉施設へ転職。

利用者の生活支援を中心に仕事をする中で、直接的なサポートによる喜びを実感しています。

収入は少し下がりましたが、人間関係が良好で精神的に安定した生活を送れています。

Bさん:異業種へ転職したが後悔

Bさんはクリニックでの対人支援に疲弊し、全く違う事務職へ転職しました。

「人と関わらない仕事がしたい」と思って選んだ職でしたが、やりがいや充実感が得られず、逆に自信を失う結果に。

後悔した理由は、準備不足と「逃げの転職」だったこと。

その後、キャリアカウンセラーの資格を取得して再び人と向き合う仕事に戻り、現在は自分の強みを再認識しながら働いています。

Cさん:独立開業に成功

Cさんは医療機関での業務に限界を感じ、いったん休職して自身の心と向き合いました。

休職中に開業心理士としてのスキルを学び、地域でカウンセリングルームを開設。

オンラインカウンセリングも導入するなど、柔軟な働き方を実現しています。

最初の半年は集客に苦労しましたが、SNSでの発信を通じて信頼を獲得し、今では予約が数ヶ月待ちの人気カウンセラーとなりました。

罪悪感や後ろめたさとの向き合い方

認知行動療法士を辞めることに対して、「自分が投げ出してしまったのでは」と罪悪感を覚える人も多いです。

また、「支援が必要なクライエントを途中で見捨てることになるのではないか」と悩むケースも見られます。

ですが、自分の心と体を守ることは、専門職として当然の選択肢です。

他者を支えるためには、まず自分自身が健康であることが前提であるという視点を持ちましょう。

また、「やりがいがある仕事なのに続けられない自分はダメなのでは」と自責的に考えてしまう人も少なくありません。

ですが、仕事の内容と自分の相性、環境の問題など複合的な要素が絡んでおり、個人の責任ではないことも多いのです。

自分自身と向き合うプロセスを経て初めて、次の一歩が見えてくるでしょう。

認知行動療法士を辞めたいときは冷静な判断を

辞めたいという気持ちが生じたとき、感情に任せてすぐに辞職するのではなく、冷静に理由を整理し、選択肢を検討することが重要です。

まずは紙に書き出すなどして、自分が感じているストレスや不満を「見える化」してみましょう。

次に、それが一時的なものか、構造的なものかを分析します。

そして、改善の余地があるのか、職場を変えるべきか、あるいはキャリアチェンジすべきかを順に考えます。

「辞める」ことが悪であるかのように捉える必要はありません。

むしろ、より自分らしく生きるための「選択」であると位置付けることが大切です。

焦らずに準備を整え、自信を持って次のステージへ進んでください。

上部へスクロール