臨床心理士として働く中で、「もう辞めたい」と感じたことはありませんか。
人の心に寄り添う仕事である一方、自身の心のケアが後回しになりがちで、気づかぬうちに疲れが溜まっているケースもあります。
また、待遇面やキャリアの先行きに不安を感じるなど、現実的な問題に直面する場面も少なくありません。
本記事では、「臨床心理士を辞めたい」と感じる理由をはじめ、その背景や対応策、辞めたあとの選択肢などを徹底的に解説していきます。
自分自身の気持ちを整理し、納得のいく判断ができるような視点を提供することを目的としています。
臨床心理士を辞めたい理由とは
臨床心理士が辞めたいと感じる理由は、多岐にわたります。
経済的な待遇の低さや精神的疲労、キャリアの行き詰まり感、職場での孤独、制度変更による混乱など、さまざまな側面が複雑に絡み合っています。
本章では、そうした「辞めたい」と感じる背景を、具体的な項目ごとに掘り下げていきます。
待遇や給与に対する不満
臨床心理士は大学院修了が必要な高度専門職であるにもかかわらず、実際の給与水準は決して高くありません。
医療機関や福祉施設では正職員であっても年収300〜400万円台にとどまることもあり、家庭を支えるには厳しいと感じる人も多いです。
また、昇給や昇進の仕組みが不透明で、どれだけ努力しても収入に反映されにくい職場も存在します。
職場によっては非常勤契約や業務委託が中心で、福利厚生が整っていない場合もあります。
このような経済的不安が、転職や退職を考える大きな要因になっています。
感情労働の限界
人の悩みに向き合い続ける臨床心理士は、常に高い感情的エネルギーを求められます。
特に、深刻な悩みやトラウマを抱えたクライエントに対して長期間関わることにより、共感疲労（エンパシー・ファティーグ）に陥ることもあります。
また、クライエントからの強い依存や理不尽な要求を受ける中で、自身の限界を感じることも少なくありません。
感情を抑えて話を聴き続ける姿勢は、心理士にとって当たり前である反面、その反動で燃え尽きるケースも見られます。
仕事とプライベートの境界があいまいになることで、日常生活にも支障をきたすようになります。
バーンアウトの兆候とは
無気力感や遅刻・欠勤の増加、仕事への関心の低下といった変化は、バーンアウト（燃え尽き症候群）のサインかもしれません。
以前はやりがいを感じていたケースに対しても、対応を避けるようになったり、感情的に反応してしまったりすることがあります。
また、身体症状として頭痛や睡眠障害、食欲不振などが表れることもあります。
「仕事に行きたくない」「誰とも話したくない」という感情が続く場合は、早めに休養や相談を検討すべきです。
これらのサインを見逃さず、自分を守る行動をとることが重要です。
職場での孤立とストレス
臨床心理士は現場に1人だけ配置されることも多く、同職種同士で相談し合える環境がないことがあります。
そのため、自身が抱える葛藤やケースの困難さについて話せず、孤独を感じる人が少なくありません。
また、医師や教員、福祉職など他職種との連携において、責任の所在が曖昧になったり、板挟みのような立場になることもあります。
管理職や上司が心理職の専門性を理解していない場合、正当な評価や支援が得られず、無力感を抱くこともあるでしょう。
資格制度への違和感
近年では「公認心理師」資格が登場したことで、臨床心理士との役割の重複や区別がつきにくくなっています。
「今後、臨床心理士の立場はどうなるのか」といった不安を抱える人も多く、資格の更新や研修の義務に対する負担感も増しています。
また、名称独占資格であることから、法的な守備範囲が狭く、活動できる領域に限りがあることも指摘されています。
こうした制度的な問題により、資格に対するモチベーションや誇りが揺らぐことも、辞めたい理由につながります。
辞めたい気持ちへの対処法
「臨床心理士を辞めたい」と感じたとき、感情のままに決断するのは危険です。
一時的な疲労によるものなのか、それとも根本的に職業選択に疑問を持っているのかを見極めることが大切です。
そのためには、まず自分自身と向き合う時間を確保し、状況を客観的に分析する必要があります。
また、信頼できる第三者に話すことで、自分の気持ちに気づいたり、新たな視点が得られることもあります。
感情に流されず、冷静に自分の今と未来を考えることが、後悔しない選択につながります。
セルフケアの方法
臨床心理士が心身の健康を維持するには、意識的なセルフケアが不可欠です。
たとえば、日常的なストレッチやウォーキングなどの軽運動、趣味の時間を持つことがストレスの軽減につながります。
また、マインドフルネス瞑想や深呼吸といったリラクゼーション技法も効果的です。
さらに、SNSや日記を使って感情を吐き出すことも、自己理解や整理に役立ちます。
「自分だけは大丈夫」と思わず、自分自身のケアを優先する姿勢が大切です。
相談機関や支援制度の活用
自分ひとりで抱え込まず、外部の相談機関を活用することも有効です。
勤務先にEAP（従業員支援プログラム）があれば、心理カウンセリングやメンタルヘルスの相談が受けられます。
また、日本臨床心理士会や地方自治体の無料相談、職能団体による研修・勉強会なども、自分の状況を共有できる場になります。
民間のキャリア相談サービスや転職支援サイトで、具体的な進路アドバイスをもらうことも可能です。
一人で抱え込まず、積極的に外部の資源を頼ることが、自分の未来を拓く第一歩です。
辞めたあとの選択肢と進路
臨床心理士を辞めたからといって、キャリアが終わるわけではありません。
これまでの経験やスキルを活かして、別の分野や新しい働き方へと道を広げることが可能です。
心理士の資質はさまざまな職業に求められており、企業の人事や福祉の相談支援、教育現場などで力を発揮できます。
さらに、独立してカウンセリング事業を行ったり、研修講師・執筆活動に転向したりと、多様な選択肢が存在します。
転職先として考えられる職種
臨床心理士の知見を活かせる職種には、人事担当者、福祉相談員、教育カウンセラーなどがあります。
特に企業人事では、採用面談や従業員支援などで「聴く力」が求められ、強みを活かせます。
福祉業界では支援計画の作成やケースワークにも適性があります。
また、スクールカウンセラーや保育園での子育て支援も視野に入るでしょう。
一度資格を取ったからこそ、別の現場でも再活用できる場面があるのです。
心理職から人事職への転向例
企業の人事部門では、採用やメンタルヘルス対応、キャリア相談の業務があります。
臨床心理士の共感力・傾聴力・評価力が、組織の人材管理に活かされる場面は多いです。
また、従業員のストレスチェックやカウンセリング制度の設計にも携わることができます。
最近では「産業心理職」として心理士の民間活用が注目されており、キャリア転換の好例です。
独立・起業という道
フリーランスの心理士として開業する人も増えています。
カウンセリングルームを構えて地域密着で活動する他、Zoomなどを活用したオンライン相談も可能です。
また、自身の経験や専門知識を活かして講座を開いたり、ブログやSNSを通じた情報発信も人気です。
独立には集客や収益化の課題もありますが、自分のペースで働ける自由度の高さが魅力です。
資格を活かした副業・複業から始めて、徐々に本格化する方法もあります。
異業種へのキャリアチェンジ
臨床心理士のスキルは、教育や出版、IT業界などでも評価されることがあります。
たとえば、教育系企業での講師・教材開発、IT企業でのユーザーリサーチ、メンタルヘルス系アプリの企画などがあります。
また、ライターやコーチ、YouTuberなどとして「人に伝える仕事」に転身する人もいます。
過去の経験や価値観を軸に、新しいキャリアを築くチャンスは十分にあるのです。
臨床心理士を辞めた人の体験談
実際に臨床心理士を辞めた人たちの経験談からは、多くの学びがあります。
辞めたことで「心が軽くなった」という人もいれば、最初は後悔したものの、新しい道で充実している人もいます。
他人の体験を知ることで、自分の決断に対する不安が和らぐこともあるでしょう。
医療機関勤務から一般企業へ
精神科クリニックで働いていた方が、うつ症状をきっかけに退職し、民間企業の人事へ転職したケースです。
「最初は場違いかと思ったが、面談やフォローの場で意外と役立った」と語っています。
教育現場から福祉分野へ横展開
スクールカウンセラーを辞めて、児童福祉施設に転職した方の例です。
「対象が変わることで悩みの質も変わり、自分にとって新鮮だった」と感じているとのこと。
独立後のオンライン相談開業体験
独立して自宅でカウンセリングルームを開き、さらにオンライン相談を導入した方の体験です。
「クライエントが全国から来てくれるようになった」と語り、やりがいを実感しています。
辞める前にやっておくべき準備
「辞めたい」と思ったら、いきなり退職するのではなく、計画的に準備を進めることが重要です。
生活資金の確保や、辞めたあとの選択肢の洗い出し、情報収集をしておくことで安心感が生まれます。
また、信頼できる人と気持ちを共有することも、冷静な判断につながります。
辞める決断をする前のチェックリスト
本当に辞めたいのか、一時的な感情なのかを見極めるために、自問自答のチェックリストが有効です。
たとえば、「なぜ辞めたいのか明確に言語化できるか」「辞めた後の生活をどう設計するか」といった点を整理しましょう。
また、家族や周囲の理解を得ておくことで、辞めた後の不安を減らせます。
退職後の金銭的対策
辞めた後の生活を支えるためには、一定期間の生活費を備える必要があります。
雇用保険の受給条件を確認し、失業手当の準備も重要です。
加えて、副業を始めて収入源を確保しておくことも、安心材料になります。
臨床心理士を辞めても活きるスキル
辞めたとしても、臨床心理士として身につけたスキルは、さまざまな場面で活かされます。
傾聴力、共感力、対人理解、論理的思考などは、ビジネスでも教育でも重宝されるスキルです。
また、心理学の知識や対話技術は、コーチングや育成、マネジメントにも応用が可能です。
自分の得意や特性を棚卸しし、再定義することが、新たなキャリアへの一歩になります。
臨床心理士を辞めたいときは冷静な判断を
「辞めたい」という気持ちは悪いことではありません。
むしろ、その気持ちを無視し続けることで、心身に支障をきたすリスクのほうが高いでしょう。
大切なのは、その感情を冷静に受け止め、なぜそう感じているのかを明確にすることです。
辞めたあとに後悔しないためにも、情報収集や準備を怠らず、納得できる判断をしましょう。
「辞める＝逃げ」ではなく、「辞める＝選択」として前向きに捉えることが重要です。