鍼灸師として働いていると「もう辞めたい」と感じる瞬間は珍しくありません。
たとえば、思うように集客ができなかったり、収入が不安定だったり、将来に不安を抱えてしまうことがあるでしょう。
また、勤務鍼灸師として働いている場合には、給料の低さや休みの少なさなど、待遇への不満が募ることもあります。
さらに、ライフステージの変化や精神的な疲れも、辞めたいと思う理由のひとつです。
本記事では、鍼灸師として働く人が辞めたいと感じたときに知っておくべき情報を、理由・対処法・転職先候補まで具体的に解説していきます。
鍼灸師を辞めたい理由とは
鍼灸師が辞めたいと感じる理由は多岐にわたりますが、主に経営や労働環境、将来への不安が背景にあるケースが大半です。
また、雇用形態やライフステージによっても悩みの内容は異なり、それぞれが独自の課題を抱えているのが現実です。
ここでは、開業鍼灸師と雇用鍼灸師、それぞれの立場からの悩みや葛藤について深掘りします。
開業鍼灸師が抱えるプレッシャー
独立開業した鍼灸師にとって、経営の安定は常に大きな課題です。
技術があっても集客に苦労することは少なくなく、特にSNSなどでの情報発信が苦手な人にとっては精神的負担が大きいものです。
口コミやレビューの評価に一喜一憂し、治療に集中できないという悩みもよく耳にします。
また、売上が安定しないことで生活費を捻出するプレッシャーが増し、結果としてモチベーションの低下につながる場合もあります。
集客が安定しないことによる不安
鍼灸院を開業しても、患者がなかなか定着しないという悩みは多くの人が抱えています。
地域によるニーズの違いや競合との兼ね合いにより、広告やSNSに力を入れても思うように結果が出ないこともあります。
それに伴い、「本当にこのまま続けていけるのか?」という不安が常につきまといます。
経営不振による金銭的ストレス
赤字が続く月があると、家賃や設備費、仕入れなどの固定費が重くのしかかります。
収益が施術回数に依存するため、自分の体調が悪くなると即座に収入に響く点も大きなストレス要因です。
生活と仕事のバランスが崩れ、心身ともに疲弊してしまうこともあります。
雇用鍼灸師の待遇と労働環境
一方で、個人院や整骨院などに勤務する鍼灸師も、多くの悩みを抱えています。
給与水準の低さや、長時間労働、有給が取りづらいといった職場環境は慢性的な課題となっています。
また、昇給やキャリアアップの見通しが立たないことで、モチベーションが保てず辞めたいと感じる人も少なくありません。
低収入・昇給なしの現実
鍼灸師の平均年収は他の医療職に比べても低めで、月収20万円を下回るケースもあります。
特に経験が浅い若手の場合、生活がギリギリになることもあり、「この先もこのままなのか」と将来に対する不安が強くなります。
休日が少ない・有給が取りにくい
業務量が多く、患者対応に追われる毎日のなかで、自分の時間が持てないことに悩む人もいます。
休暇を取ろうとしても人手不足で遠慮せざるを得なかったり、職場の雰囲気が有給取得を阻んでいるケースもあります。
ライフイベントとの両立の難しさ
特に女性鍼灸師にとっては、妊娠・出産・育児といったライフイベントとの両立が大きな壁となる場合があります。
多くの職場ではフルタイム前提の勤務体制が多く、柔軟な対応が難しいため、家庭とのバランスに悩む人が増えています。
育児・妊娠と仕事の両立
妊娠中も立ち仕事が続くため身体への負担が大きく、出産後に仕事へ戻るにしても預け先の問題や時短勤務の整備が課題となります。
一度休職したことでキャリアが止まってしまうという不安も、辞めたい気持ちを強める要因です。
職場復帰後の待遇や仕事量の差
出産や育児休業から復帰したあと、職場の理解が得られず、仕事内容が減ったり責任ある業務から外されたというケースもあります。
その結果、自信を失って辞めるという選択をする人も少なくありません。
辞めたいけど辞められない心理とは
「辞めたいのに辞められない」と感じる人の多くは、内面に強い葛藤を抱えています。
その背景には、資格やキャリアへの執着、周囲の目を気にする気持ち、自己否定の感情などが複雑に絡み合っています。
ここでは、そうした心理を具体的に整理し、冷静に向き合うための視点を提供します。
資格が無駄になる恐怖
鍼灸師になるまでには、専門学校や国家試験など多くの時間とお金がかかっています。
そのため「辞める=これまでの努力がすべて無駄になる」と感じてしまうのは当然のことです。
この心理的ブロックが行動の足かせになっているケースは非常に多く見られます。
「もう他の道がないのでは」という思い込み
鍼灸師以外の職業が想像できない、他に自分を必要としてくれる場所がないと思い込んでしまうことがあります。
そのような思い込みを外すためには、自分のスキルを棚卸しし、他の業界での活用方法を探ることが大切です。
他人の目や評価が怖い
「辞めたら周囲にどう思われるか」という不安も大きな障壁になります。
特に、家族や同僚、患者からの信頼を得ている人ほど、期待を裏切るようで申し訳ない気持ちになってしまうことがあります。
「周囲の期待を裏切れない」という感情
親や恩師、同僚などから「続けるべき」と思われていると、それがプレッシャーになって身動きが取れなくなることがあります。
しかし、自分の人生は自分で決めるものだという視点を持つことが、次の一歩につながります。
自信の欠如から行動できない
長く同じ仕事をしていると、それ以外に自分にできることがないと感じてしまいがちです。
「辞めたあとに何ができるかわからない」「どこへ行っても通用しないのでは」といった不安から、現状にとどまってしまう人は多くいます。
「どうせ次も続かない」と思い込んでしまう
過去の失敗経験がある人ほど、新しいチャレンジに対して悲観的になりがちです。
しかし、環境や業種を変えることで、自分の強みが活かせるケースも多々あります。
辞める前にやるべき準備
感情だけで勢いよく辞めてしまうと、後で後悔することがあります。
辞めると決めたら、経済的な準備、キャリアの棚卸し、支援制度の確認などを丁寧に行いましょう。
以下では、辞める前に具体的にやっておきたい準備について解説します。
生活費の確保と公的支援の理解
最低でも3〜6ヶ月分の生活費を確保しておくことが理想です。
失業手当や健康保険の切り替えについても、あらかじめ調べておきましょう。
退職後の空白期間が長引くと、精神的にも追い詰められやすくなります。
失業手当や国保の切り替え方法
雇用保険に加入している場合、条件を満たせば失業手当を受け取ることが可能です。
退職後すぐにハローワークへ行き、必要な手続きを済ませることで支援を受けやすくなります。
今の職場・働き方の見直し
実は辞めなくても改善できる選択肢があるかもしれません。
配置転換、時短勤務、シフト調整など、働き方の見直しを提案することで環境が変わることもあります。
配置転換や時短勤務の提案
直属の上司に相談し、自分の希望を率直に伝えることから始めましょう。
他の部署への異動や業務量の調整で、負担を軽減できる可能性があります。
キャリアカウンセリングを受ける
一人で悩むよりも、第三者に相談することで新たな視点が得られます。
キャリアコンサルタントや自治体の無料相談窓口などを利用するのも一つの手段です。
専門家の視点で整理することで視野が広がる
自分では気づかなかった適性や強みを発見できることがあります。
結果的に辞める判断が変わったり、転職後の方向性が明確になるケースもあります。
鍼灸師からの転職・キャリアパス
鍼灸師としての経験は、他業界でも活かせる場面が数多くあります。
医療・介護、健康・美容、接客・販売など、あなたの知識とスキルを必要としている仕事は多岐にわたります。
ここでは、鍼灸師からの具体的な転職先と、その適性について解説します。
医療・介護分野への転職
鍼灸の知識は、高齢者の身体ケアやリハビリ分野で高く評価されます。
介護施設やデイサービス、訪問介護などでは、身体の状態に対する理解力が大いに役立ちます。
また、医療事務やクリニックの受付業務などにキャリアチェンジする人も増えています。
鍼灸師としての身体ケアの知識を活かせる
ツボや身体の構造を理解していることは、介助時や高齢者対応において安心感を与える要素になります。
また、利用者の体調を早期に察知するスキルとしても重宝されるでしょう。
健康・美容関連企業への就職
サプリメントや健康食品、美容機器などの開発・販売企業では、鍼灸師の専門知識が新商品企画やカスタマー対応に活かされます。
治療院の経験があることで、現場のニーズに即した意見を出せるのも大きな強みです。
サプリメント企画・カスタマーサポートなど
専門性を活かしながら、より多くの人に健康を届けたいと考えている人には適した選択肢です。
商品知識の提供や正しい使用方法の説明など、役割は多岐にわたります。
事務・営業職へのキャリアチェンジ
鍼灸師は、患者対応や予約管理、在庫管理なども行っているため、事務処理能力が備わっています。
また、対人スキルを活かして営業職に転じる人も少なくありません。
接客経験を活かせるフィールド
特に人とのコミュニケーションが得意な方は、販売・接客・営業といった職種でも即戦力として活躍できます。
履歴書や面接で鍼灸師時代の経験をしっかり伝えることが成功の鍵になります。
資格を活かした副業・複業
近年では、本業を続けながら副業や複業として活動する鍼灸師も増えています。
例えば、YouTubeでセルフケア動画を配信したり、オンライン講座を開いたりするなど、資格を活かした収益化が可能です。
YouTube・講師・Webライターなどの活用法
自宅にいながら知識や経験を発信できる場として、SNSや動画メディアが注目されています。
また、鍼灸や健康に関するコラムを執筆するWebライターとして活躍する人もいます。
退職の手続きと注意点
鍼灸師を辞めると決めたら、雇用形態に応じた退職手続きが必要になります。
スムーズな退職とトラブル回避のためにも、必要なステップを確認しておきましょう。
正社員・契約社員の場合
就業規則に沿って退職届を提出する必要があります。
また、有給休暇の取得や引き継ぎ、退職金の有無なども確認しておきましょう。
退職届の提出と有給消化の注意点
退職届は通常1ヶ月前までに提出する必要があります。
有給が残っている場合は、計画的に取得しないと消化できずに損をする可能性があります。
業務委託・個人事業主の場合
開業届を出している場合は、廃業届の提出が必要になります。
確定申告の手続きや、取引先との契約解除にも注意を払いましょう。
開業届の廃止や確定申告の手続き
廃業日は実際の営業終了日ではなく、税務署に届け出た日が基準になります。
最終年度分の所得や経費をきちんと記録しておくことが重要です。
辞めた後の後悔と防ぎ方
鍼灸師を辞めたあとに「思っていたのと違った」「もっと準備しておけばよかった」と後悔する人もいます。
そうした失敗を防ぐためには、辞める前に十分なリサーチと試行錯誤を行うことが重要です。
以下に、よくある後悔のケースとその対策を紹介します。
転職先が合わなかった場合の対処
新しい職場に期待して転職しても、「想像以上に忙しい」「人間関係が悪い」など、理想と現実のギャップに悩むことがあります。
こうした事態を避けるためには、事前に職場見学やインタビューなどを行い、可能な限り情報を集めておくことが大切です。
試用期間中のリカバリー方法
試用期間中であれば早期に退職を選択することも可能です。
また、在職中に転職活動を進めておけば、ブランクなく次の道へ進める確率が高まります。
資格を完全に捨ててしまった後悔
辞めた直後はスッキリしていても、時間が経つと「やっぱりもう一度やってみたい」と思うこともあります。
特に長く勤めていた人ほど、元の仕事への未練が出てくることがあります。
資格を一部活かす道を残しておく工夫
すぐに免許を返納したり、完全に縁を切るのではなく、非常勤や副業、スポット的な施術などで少しずつ関わりを持つ方法もあります。
また、月に数回だけ施術を行うサロン勤務や、知人・家族への施術など、柔軟な関わり方を考えてみましょう。
鍼灸師を辞めたいときは冷静な判断を
鍼灸師を辞めたいと感じることは、決して悪いことではありません。
しかし、感情だけに任せた行動では後悔する可能性もあるため、一度立ち止まって自分の状況を見つめ直すことが大切です。
これまでの経験を整理し、今後どうしたいかを明確にすることで、自分にとって最良の選択肢が見えてくるはずです。
辞めることがゴールではなく、より納得のいく働き方や生き方に近づくためのステップとして位置づけましょう。