人事職は「人」に関わる責任の重い仕事であり、やりがいも大きい反面、精神的なストレスを抱えやすい職種です。
会社と従業員の間に立つことが多く、板挟みに悩まされる場面も少なくありません。
さらに、目に見えづらい成果や属人的な業務の多さから、やりがいや達成感を感じにくいこともあります。
本記事では「人事を辞めたい」と感じている方に向けて、辞めたい理由の整理、判断基準、辞める前に準備すべきこと、辞めた後のキャリアまでを徹底的に解説します。
人事を辞めたい理由
人事職に就く方が「辞めたい」と感じる理由には、職種特有の性質や社内環境による要因が重なっているケースが多く見られます。
評価が数値で明確化されにくいため、自己成長や成果を実感しにくいことが一因です。
また、従業員からの相談・クレーム対応や経営層との方針調整など、感情を扱う業務が中心となるため、メンタルへの負担が大きくなります。
そのうえで属人化しやすい業務が多く、休みづらい、仕事を任せづらいといった状況に陥ることで、疲弊感が積み重なります。
この章では、具体的にどのような業務が「辞めたい」と感じる原因になりやすいのか、項目ごとに掘り下げていきます。
業務別に見る人事の辞めたい原因
人事業務は多岐にわたるため、「どの業務にストレスを感じるか」は個人差があります。
たとえば、新卒採用では学生対応や内定辞退者への対応が負担になり、中途採用では人材確保の難しさとスピード重視のプレッシャーに悩まされることがあります。
教育や研修では、現場との連携不足や変化しない風土に無力感を感じやすいでしょう。
人事制度設計では、経営層の意向ばかりが優先され、現場の声が反映されないことでモチベーションが低下します。
労務管理では、法的知識の要求やトラブル対応によるプレッシャーが大きく、精神的にすり減る場面も多く見られます。
新卒・中途採用
新卒採用では、就活生との連絡、面接日程の調整、内定辞退対応など、丁寧なコミュニケーションが求められます。
一方で、内定者を確保するための数値目標もあり、学生と会社の間で板挟みになるケースもあります。
中途採用においては、スピードとマッチングの精度が求められ、プレッシャーはさらに高くなります。
応募者対応や面接官調整、書類選考の評価基準を巡る社内調整など、業務負荷も大きいのが実情です。
目標ノルマと内定辞退率の板挟み
採用目標数と学生側の辞退意志が衝突する場面は、人事にとって大きなストレスです。
企業からのプレッシャーと、学生の自由意思との間で調整を求められる状況が続くと、精神的疲弊につながります。
「辞退される=自分の評価が下がる」と感じてしまうことで、業務の意味が見えづらくなることもあります。
学生・応募者との心理的負担
学生や求職者との1対1のやりとりは、相手の人生を左右するという重圧が伴います。
連絡のレスポンス管理や、不採用通知の伝達といった心をすり減らす業務も含まれます。
相手に対して丁寧に接する姿勢が求められつつ、社内からはスピードや数値結果が求められる二重のストレスが発生します。
教育・研修
人事部門における教育・研修担当は、社員の成長や組織文化を醸成する役割を担いますが、その一方で現場の協力が得られず、研修が形骸化してしまうというジレンマに悩むことも少なくありません。
努力しても「効果が見えにくい」「評価されにくい」という構造的な問題があります。
また、社員のモチベーションが低い中での運営や、研修後のフォロー不足を責められることに対するプレッシャーも強いです。
現場との連携不足による無力感
研修内容に理解や賛同を得られないまま実施せざるを得ないケースが多く、やりがいを感じにくくなります。
現場社員や管理職が非協力的である場合、「自分だけが頑張っている」と孤独感を感じることが増えます。
成果が数値化されず評価されない
教育・研修の成果は短期的には見えづらく、数値評価が難しいため、人事内での業績評価が低くなりがちです。
結果として、自分の頑張りが会社に認められていないと感じ、辞めたくなる気持ちが強まります。
人事制度・企画
制度の見直しや人事戦略の企画立案を担う職種は、会社の方向性と密接に関わる重要な役割ですが、意見の通らなさや反映の難しさに悩むこともあります。
特に経営層の意向に引きずられ、現場からの実情が無視されると「自分の仕事は誰のためのものか」と迷いが生まれます。
経営層の意向ばかり優先される
トップダウンでの指示に従うことが多く、自分の提案が却下されたり無視されたりすることが続くと、モチベーションが著しく低下します。
その結果、自らの存在意義を見失い、辞職を考えるようになるのです。
制度が形骸化して改善が進まない
一度作った制度が実運用に乗らない、改善を提案しても取り合ってもらえないなど、変化の遅さに無力感を覚えるケースがあります。
「どうせ変わらない」という諦めが積もることで、モチベーションの維持が困難になります。
労務管理
労務担当者は社員の勤怠・給与・福利厚生などを管理し、法令順守やトラブル対応も求められる繊細なポジションです。
特に問題社員やハラスメント案件の対応は、感情的なエネルギーを大きく消費します。
クレーム対応・法令順守へのプレッシャー
労働基準法違反などへの対応ミスは、会社全体の信頼に関わるため、常に緊張感を持った仕事になります。
些細なミスも許されない状況に精神的な負荷が積み重なり、「もう辞めたい」と思う要因になります。
社員の相談対応でメンタルをすり減らす
人間関係や私的問題などの相談を受けることも多く、自分の感情が巻き込まれてしまうこともあります。
感情移入しすぎる人ほど、共倒れになってしまうリスクがあります。
人事の仕事が向いていないと感じる場面
「人が好きだから人事に向いている」と思われがちですが、実際は「人に寄り添いすぎて疲れる」「期待とのギャップで苦しむ」など、向き不向きがはっきり出る仕事です。
自己の性格と人事の仕事の相性を見極めることが重要であり、それが「辞めたい」と感じる根本的な原因である場合もあります。
精神的に疲弊するパターン
人の悩みやトラブルに向き合い続けることで、自分のメンタルがすり減る人も多いです。
特に共感力が高い人ほど、感情を受け取りすぎてしまい、ストレスが蓄積しやすくなります。
感情に巻き込まれやすい人
相手の感情に影響されやすい人は、落ち込んでいる社員と接した後、自分も落ち込んでしまうという傾向があります。
そのような性質の人は、長期的に人事の仕事を続けることが難しいかもしれません。
共感しすぎて自分が病んでしまう
相手を救いたいという想いが強すぎて、自分の時間や心を犠牲にしてしまうこともあります。
「助けたいのに助けられない」という状況が続くと、自己肯定感が下がり、辞めたくなる要因になります。
辞めたいときの判断軸と見極め方
「辞めたい」と思ったとき、すぐに退職を決断するのではなく、まずは冷静に現状と自分の気持ちを整理することが重要です。
それが一時的なストレスなのか、長期的に続く問題なのかを見極めることで、的確な判断ができます。
また、異動によって改善できるケースと、職種転換や退職によってしか解消できないケースを見分けることもポイントです。
判断軸を明確に持つことで、後悔の少ないキャリア選択が可能になります。
辞めたいと感じたタイミング別の対処法
人事職としてのキャリアの中で、「辞めたい」と感じるタイミングは人それぞれです。
タイミングによっては、まだ改善余地がある場合もあれば、見切るべき時もあります。
感情に流されず、冷静に状況を分析し、自分にとって最適なアクションを選びましょう。
入社1年未満のケース
新しい環境に慣れずに苦しんでいるだけである可能性が高いため、少なくとも1年は続けるつもりで考えてみるのが得策です。
その間に上司や先輩に相談し、仕事内容の調整や改善ができるか試みることが望ましいです。
昇進・異動直後のケース
新しい役割への適応に苦戦し、「向いていないのでは」と感じるかもしれません。
数か月の様子見や業務の再設計で改善されることもあります。
成果が出る前に見切るのは早計な場合があります。
制度変更・社内環境の変化によるケース
急な制度変更や組織再編により、業務負荷が増えたり方針に納得できなかったりするケースです。
この場合、改善が見込めないと判断できれば転職も視野に入れるべきです。
変化に対してどこまで許容できるかが鍵となります。
辞めるか異動希望かの判断基準
辞職と異動のどちらが良いかは、原因の所在が職場環境にあるのか、業務内容にあるのかで異なります。
職場の人間関係が原因であれば異動で改善可能ですが、業務そのものが合わないのであれば退職の方が適しているでしょう。
異動で解決できるケース
今の上司との相性が悪い、部署の方針が合わないなど、職場環境の問題が主因である場合は異動を検討すべきです。
社内での実績や人脈がある場合、異動はキャリアの中断をせずに新たな挑戦ができる方法です。
退職が最善となるケース
そもそも人事職そのものが向いていない、もしくは長期間にわたってストレスを感じ続けている場合、抜本的な職種転換が必要です。
このまま続けることでメンタルや体調に支障が出る可能性があるなら、退職を選ぶべきです。
辞める前に準備すべきこと
退職を決意したからといって、すぐに辞めてしまうのは危険です。
退職後の生活やキャリアに備え、事前に準備すべきことを明確にしておくことが非常に重要です。
ここでは、自分のスキルや強みの整理から、転職活動に向けた具体的な行動までを整理していきます。
自分の棚卸しと将来設計
退職前に「自分は何ができるのか」「何をしてきたのか」を言語化しておくことは必須です。
職務経歴書や面接で語るうえでも、この作業は非常に重要になります。
また、今後どのようなキャリアを目指すのかという将来設計を描くことで、転職活動にも一貫性が出ます。
スキルと成果の可視化
どのような業務をどれだけの期間行い、どんな成果を出してきたかを、数字や具体的なエピソードでまとめましょう。
例:「採用数を前年比120%に伸ばした」「人事制度の改定に参画し、離職率を3%低下させた」など。
転職市場での需要確認
転職エージェントに登録したり、求人サイトで同様の職種を検索することで、自分のスキルがどの程度市場に通用するかを客観視できます。
エージェントからフィードバックをもらうことも、自信を持って転職活動を進めるうえで役立ちます。
現実的な準備事項
転職を前提に辞めるのであれば、生活設計や転職活動のスケジュールも含めた準備が必要です。
退職後に「収入がない」「転職活動が長引いて焦る」という状態にならないよう、段階的に行動しましょう。
生活設計と収支見直し
最低でも3か月分の生活費は貯金しておくと安心です。
また、支出の見直しや一時的な節約プランを立てることも、退職後の精神的安定につながります。
履歴書・職務経歴書の作成
自己分析をもとに履歴書と職務経歴書を整備します。
志望動機や自己PRは「なぜ辞めたのか」よりも「次にどう活かすか」を中心に組み立てましょう。
転職活動の開始とエージェント利用
信頼できる転職エージェントに登録することで、非公開求人や書類添削、面接対策などの支援が受けられます。
複数エージェントを使うことで客観的な意見が得られやすくなります。
人事から転職しやすい職種・業界
人事の経験は、幅広い対人スキル・調整スキル・制度運営スキルとして評価されるため、他職種への転職も十分に可能です。
特に人材業界やバックオフィス系、対人業務を中心とした職種との相性が良い傾向があります。
職種別の具体例と特徴
人事経験者が活躍しやすい職種として以下が挙げられます。
人材紹介・エージェント
採用側の経験を活かし、求職者に対するリアルなアドバイスが可能です。
また、企業側の採用ニーズを理解している点も大きな強みになります。
コンサルタント・講師
人事制度や組織改革の経験を持つ人は、外部から企業支援をするコンサル職への転向も可能です。
研修設計の経験があれば、企業研修講師として活躍する道もあります。
カスタマーサクセス
顧客対応の中でも「課題解決型」のスキルが求められるカスタマーサクセスは、人事の調整力やヒアリング力が活きやすい分野です。
バックオフィス・経営支援
総務・労務・経営企画など、社内のサポートや制度設計に携わるポジションも転職先として現実的です。
人事経験が活かせるスキルとは
業種や職種に関わらず、以下のようなスキルは転職市場でも高く評価されます。
対人力と調整能力
社員・経営層・外部業者など、利害関係者との折衝経験はどんな職種にも通じます。
制度設計や評価業務の論理性
公平性や客観性を求められる評価制度の設計経験は、論理的思考力の証明になります。
実際に辞めた人の体験談
人事職を辞めて転職した人々の体験談には、転職先でのやりがいや、退職後に後悔したことなど、学べることが多くあります。
実例を知ることで、自分の今後をより現実的にイメージできるようになります。
転職成功例
大手→ベンチャーでの活躍
大企業での制度運用の知識を活かし、ベンチャー企業で「ゼロから制度を作る」人事企画担当として活躍するケースがあります。
人事→広報や企画への転身
社内報やインナーブランディングを通じて培った発信力を活かし、広報・企画職に転向した例もあります。
転職で苦労した点
スキル証明に時間がかかった例
定量的な実績が出しにくい人事業務では、自己PRや職務経歴書でのアピールが難しいと感じる方もいます。
年収・環境のギャップに戸惑った例
ベンチャーなどに転職した結果、給与が下がったり、整備された制度がないことに戸惑うケースもあります。
人事を辞めるメリット
辞めることは決して後ろ向きな選択だけではありません。
自分に合った働き方を見つけ直す機会として、キャリアのターニングポイントになり得ます。
精神的・環境的なメリット
慢性的なストレスから解放され、気持ちの余裕を取り戻せる可能性があります。
土日や夜間に仕事のことを考えずに過ごせるだけでも、生活の質が大きく変わります。
新しい可能性への挑戦
人事以外の職種に挑戦することで、自分の新たな強みや適性を発見することができます。
職種を変えることで、将来的に独立や副業にもつながることがあります。
人事を辞めるデメリット
反対に、辞めることで得られるはずだった経験を途中で断念したり、収入面や評価軸が変化するリスクもあります。
辞めた後に「前職の方が合っていた」と感じる人も一定数います。
キャリアの方向性を見失う可能性
目的意識がないまま辞めてしまうと、次に何をしたいのかが曖昧になり、転職活動が長引く恐れがあります。
収入・待遇のダウン
人事経験が活かせない業界や職種に移る場合、年収が大幅に下がることもあります。
条件の良さだけでなく、業務内容や成長機会も総合的に比較することが大切です。
これからの人事職の未来とキャリア設計
人事職は変化の激しい現代において、その役割や求められるスキルも大きく変わりつつあります。
従来の「調整型人事」から「戦略型人事」へと進化する流れの中で、時代に合ったスキルを身につければ、より高い市場価値を持つことができます。
辞めることだけを選択肢にするのではなく、「どうアップデートしていくか」という視点を持つことも大切です。
HRテックとスキル変化
データ活用・人材アナリティクス・AIマッチングなど、HRテクノロジーの導入が進んでおり、ExcelやGoogleフォームでの手作業中心だった人事業務も自動化されつつあります。
それに伴い、論理的なデータ分析スキルやツール活用力が今後の人事に求められていくでしょう。
外部人事としての独立や副業の可能性
近年では、複数企業と業務委託契約を結ぶ「フリーランス人事」や「顧問人事」として活躍する人も増えています。
また、副業で採用代行や研修講師を行うなど、多様なキャリアの形が生まれています。
一社に依存しない働き方を目指す人にとっては、大きな選択肢となるでしょう。
人事を辞めたいときは冷静な判断を
人事職には特有のやりがいもあれば、他職種にはないストレスやプレッシャーもあります。
「辞めたい」と感じたときに大切なのは、感情に任せて衝動的に退職を決断するのではなく、状況を分析し、自分にとって何が最善かを見極めることです。
必要であれば第三者の意見を仰ぎながら、整理された判断をすることで、次のキャリアへの移行もスムーズになります。
辞めるにしても、続けるにしても、自分自身を知り、自分で選ぶことが何よりも大切です。