言語聴覚士を辞めたいと感じたら?理由と対処法

言語聴覚士(ST)は、ことばや聞こえ、嚥下のリハビリを行う専門職として、多くの人の生活に深く関わっています。

その一方で、現場では「辞めたい」と感じる人も少なくありません。

仕事内容の負担感や、人間関係、評価されにくい業務特性など、日々の業務に悩みを抱えている人は多いでしょう。

さらに、キャリアの将来性や働き方の自由度にも限界を感じることがあります。

本記事では、「辞めたい」と感じている言語聴覚士の方に向けて、具体的な理由、職場ごとの違い、辞めた後の進路、辞める前の準備、精神的限界への対処法などを丁寧に整理して解説していきます。

言語聴覚士を辞めたいと感じる主な理由

言語聴覚士の離職理由には、業務そのものへの不満や、職場内の人間関係、精神的な負担が関係しています。

また、患者の回復に時間がかかるため、目に見える成果を感じづらく、達成感を得にくいことも原因の一つです。

さらに、周囲からの理解が得にくいこと、業務量の割に給与が見合わないことなども大きな悩みになっています。

業務内容に対する不満

言語聴覚士は専門性の高い仕事であるにもかかわらず、その業務の成果が数字で表れにくいため、評価されにくい傾向があります。

患者の回復スピードは個人差が大きく、努力がすぐに報われないこともしばしばです。

また、書類作成や報告書などの事務作業が多く、実際の支援時間が削られてしまうことに不満を持つ人もいます。

リハビリ以外の雑務や介護補助を任されるケースもあり、本来の業務に集中できないという声があがっています。

評価されにくい支援結果

言語訓練の効果は長期的に現れることが多く、短期間では周囲からの評価を得るのが難しいです。

また、保護者や介護者が期待する即効性とのギャップに悩むこともあります。

支援の質よりも、件数や対応数で評価されるといったジレンマも存在します。

非専門業務の多さ

リハビリとは無関係な書類作成や電話対応などを任されることもあり、業務過多に陥りがちです。

本来、専門性を活かすべき場面でも「とりあえず何でもやってくれる人」と見られてしまうこともあります。

職場の人間関係や理解の乏しさ

多職種と連携する医療・福祉現場では、人間関係のストレスも大きな要因です。

言語聴覚士の仕事内容が周囲に理解されにくく、「何をしているのかわからない」と言われることもあります。

特に医師や看護師との関係で、自分の意見が通りにくいと感じるケースは多いです。

職場内での立場の弱さ

言語聴覚士の配置が1人のみという職場も多く、チームの中で孤立してしまうことがあります。

また、会議などで発言の機会が少なく、存在感の薄さを感じるという声もあります。

多職種連携におけるストレス

理学療法士や作業療法士との業務範囲の重複でトラブルが起きることもあります。

また、ケアマネジャーや施設職員との方針の違いによる衝突も精神的な負担になります。

精神的・肉体的な負担

子どもの発達障害や高齢者の認知症といった、支援が長期にわたるケースでは、感情的な消耗も大きくなります。

また、姿勢を維持しながら長時間話すことにより、身体的にも負担が蓄積します。

感情労働の蓄積

親御さんの不安に寄り添い続けたり、高齢者の喪失体験に向き合ったりと、言語聴覚士の業務には感情を動かされる場面が多くあります。

こうした感情の積み重ねが、バーンアウト(燃え尽き)につながることもあります。

身体的疲労の蓄積

声を長時間使うことで、喉に負担がかかりやすくなります。

また、前かがみの姿勢で患者に対応する場面も多く、腰や肩に疲労が溜まりやすくなります。

勤務先によって異なる悩み

言語聴覚士が働く場所によって、仕事内容や求められる役割が異なるため、それぞれに特有の悩みや辞めたい理由があります。

病院、施設、教育機関など勤務先ごとに、離職の背景や働き方の課題を把握しておくことで、自分が置かれている環境を客観的に見ることができます。

病院勤務のケース

病院では急性期や回復期において、短期間での効果を求められるプレッシャーが強く、評価に対するストレスを感じやすくなります。

リハビリテーション科の中では、理学療法士や作業療法士に比べて人数が少なく、肩身の狭さを感じることもあります。

リハ職間の連携課題

同じリハビリ職であっても、STの専門領域が理解されず、業務分担が不明確になることがあります。

「ことばの訓練なんて必要ないのでは」と軽視される経験から、モチベーションが低下する人もいます。

急性期と回復期での役割の違い

急性期では退院までの時間が短く、成果を出すまでの猶予がありません。

患者との関係構築が十分にできないまま終わってしまうことも多く、やりがいを見出しにくくなる原因のひとつです。

高齢者施設勤務のケース

介護施設では、医療職としての専門性を活かす場面が限られ、介護業務に巻き込まれることがあります。

スタッフ間の役割分担が明確でない施設も多く、看護師や介護職との立場の違いに悩む人が多いです。

介護職との立場の違い

「リハビリの先生」ではなく「手が空いている人」として扱われ、介助や雑務を優先させられる場面があります。

専門職としての自尊心が傷つけられ、やりがいを感じにくくなる傾向があります。

業務負担の偏り

看護職との連携が取れず、STだけが嚥下対応に追われるような環境では、責任が過重になりやすいです。

一人職場の場合、休みも取りにくくなるリスクがあります。

特別支援学校勤務のケース

教育現場では、STとしての専門性が活かしづらいケースもあります。

教職員との連携不足や、支援方針の不一致がストレスにつながることがあります。

教員との連携不足

授業優先のために、リハビリの時間が確保されにくいことがあります。

STの役割が理解されず、形式的な配置になっているケースも見られます。

保護者対応の負担

熱心な保護者の要望に応えるために時間や労力が割かれ、業務時間外にも連絡が来ることがあります。

結果として、私生活にも支障をきたすケースもあります。

辞めた後の進路と転職の選択肢

言語聴覚士を辞めたあとのキャリアには、大きく分けて「資格を活かす道」と「まったく別の職種へ進む道」があります。

それぞれにメリット・デメリットがありますが、自分の価値観やライフスタイルに合った進路を選ぶことが大切です。

資格を活かせる転職先

医療現場での経験を生かし、関連する職種に転職するケースが多く見られます。

たとえば、医療事務、福祉施設の相談員、教育機関の支援スタッフなどです。

コミュニケーション能力や観察力など、STとして培ったスキルはさまざまな分野で重宝されます。

医療事務・教育・相談職

患者対応や記録業務に慣れている点から、医療事務は比較的転職しやすい職種です。

また、特別支援学校や保育園などでの発達支援員・サポート教員として働くことも可能です。

福祉施設の管理職など

長年の臨床経験があれば、介護施設の運営スタッフやリーダー職に転職する事例もあります。

マネジメントスキルを身につければ、福祉系NPO法人などで活躍の場が広がります。

まったく別の業種への転職

医療業界を完全に離れ、一般企業に転職する道もあります。

特に、事務職や営業職、人事・総務などの間接部門は、社会人経験が評価されやすい分野です。

一般事務・営業・人事など

正確な記録作成や対人スキルは、事務職や接客・営業の場でも強みになります。

また、人材会社や福祉系ベンチャーなどでの活躍事例もあります。

独立やフリーランス

開業届けを出して訪問リハやフリーのSTとして活動する人もいます。

働く時間や場所を自由に決められる一方で、収入の不安定さや営業活動の負担がつきものです。

開業STや訪問支援

在宅介護のニーズが高まっており、自宅訪問によるSTサービスの需要も増えています。

しかし、開業にあたっては制度理解や設備準備が必要です。

YouTube・教材販売など情報発信

言語聴覚士としての経験をもとに、発達支援のノウハウを発信する人も増えています。

教育教材の販売、ブログ、SNSなどを使った副業型キャリアも可能です。

辞める前にやっておくべきこと

感情的に辞めてしまうと、転職先で同じような悩みに直面する可能性があります。

辞める前にしっかりと準備し、冷静に状況を整理することが大切です。

ここでは、キャリアの棚卸しや相談・情報収集のポイントを解説します。

キャリアの棚卸し

まずは、これまでどのような仕事をしてきたか、自分のスキルや強みを整理しましょう。

棚卸しをすることで、履歴書・職務経歴書の作成にも役立ちますし、転職の方向性も明確になります。

スキルや強みの明文化

どのような対象(高齢者、子ども、障害者)を支援してきたのか、どんな場面で貢献してきたかを具体的に書き出します。

たとえば「失語症の患者に週3回の発話訓練を3ヶ月継続し、50音の発話が可能に」など、数値や期間を含めて整理するとよいでしょう。

自己理解を深める

「何がつらかったのか」「どうして辞めたいのか」を紙に書き出すことで、問題の本質が見えてきます。

自分に合わない部分が明確になれば、次に選ぶ職場の条件がはっきりしてきます。

情報収集と相談

転職を成功させるには、情報を集めることと信頼できる相談相手を見つけることが重要です。

特に医療職専門の転職サービスや、家族・友人からの意見は、自分一人では気づけない視点を与えてくれます。

転職エージェントの活用

医療・福祉に特化したエージェントを活用すれば、求人の選び方や履歴書の書き方もサポートしてもらえます。

面接対策や条件交渉など、転職活動を円滑に進めるためのパートナーになります。

知人・家族への相談

自分では大きな悩みと思っていたことが、他人の視点で見れば別の解決策があることもあります。

話すことで心が軽くなり、視野も広がるため、早めに相談しておくと良いでしょう。

辞めずに続けるための工夫

辞めることが唯一の選択肢ではない場合もあります。

環境や働き方を変えることで、今の職場でもストレスを減らしながら続ける道があるかもしれません。

この章では、辞めずに乗り越えるための現実的な工夫を紹介します。

勤務形態の見直し

常勤フルタイム勤務からパート勤務に切り替える、夜勤をなくすなど、働き方を柔軟にするだけでも精神的な負担は軽減されます。

最近では「週3勤務」などの求人もあり、選択肢は広がっています。

パートや時短勤務

子育てや介護など家庭事情に合わせた働き方に変更することで、ストレスの原因が緩和されることがあります。

一時的に働く時間を減らして、自分の心と体を立て直す時間にあてるのも選択肢のひとつです。

夜勤・休日出勤の削減

日中勤務のみや平日のみの勤務体制を交渉することで、生活リズムを安定させることができます。

このような調整が難しい場合は、ライフスタイルに合った職場への異動や転職も視野に入れるべきです。

制度やサポートの活用

ストレスが限界に達する前に、社内外のサポート制度を活用することが大切です。

相談窓口を使ったり、業務負担を軽減するための制度を申請することも現実的な対処法です。

職場内の相談窓口

産業医やEAP(従業員支援プログラム)など、職場内に設けられている相談制度を使うことで、メンタルヘルスのサポートを受けられます。

一人で抱え込まずに、専門家のアドバイスを受けることが回復の第一歩になります。

転職以外の異動希望

同じ職場でも、部署や対象利用者を変えることで、業務内容が大きく変わることがあります。

たとえば高齢者支援から小児支援へ異動することで、仕事へのやりがいや相性が変わる可能性もあります。

辞めた人たちの実例・体験談

実際に言語聴覚士を辞めた人たちの体験談には、多くのヒントや気づきがあります。

それぞれの背景や辞めた後の選択肢を知ることで、自分の将来像を描く助けになります。

医療職から教育職へ

子どもの発達支援に関心があった方が、発達支援員や保育士、放課後デイサービス職員へと転職する事例があります。

子どもとの関わり方や発語支援のスキルを活かしつつ、より教育に寄った支援を行いたいという動機が多いです。

自治体やNPOが運営する福祉教育施設では、ST出身者が歓迎されるケースも増えています。

一般企業へ転職した例

対人スキルやプレゼン能力を活かして、接客業や営業職、人材業界へ転職する例もあります。

特に人と関わる仕事にやりがいを感じていた方は、医療業界に限らず新たなフィールドで活躍できています。

また、企業研修講師として、発声や伝え方を指導する仕事に転じる方もいます。

一度休職し復帰した例

限界を感じて一度休職し、休養を経て職場に復帰するケースもあります。

復帰後は業務量を調整したり、対象者を変更したりすることで、同じ職場でも無理なく働けるようになったという例が多数報告されています。

休職は逃げではなく、再スタートを切るための重要なプロセスです。

精神的に限界を感じているときの対処法

辞めたいという気持ちが強くなりすぎて、「もう何もかもが嫌だ」と感じている場合は、精神的に限界が近づいているサインかもしれません。

そのような状態のときは、何よりも「自分を守ること」を最優先にしてください。

相談窓口と制度

精神的に追い詰められる前に、専門の相談窓口を利用することが大切です。

一人で抱え込まず、声を上げることが状況を変えるきっかけになります。

産業医・精神科の活用

定期健康診断で設けられる産業医面談のほか、精神科・心療内科での受診も選択肢になります。

診断を受けることで、休職や通院のサポートが受けられることもあります。

労働基準監督署・支援団体

長時間労働やハラスメントがある場合は、労基署に相談することが重要です。

職場に言い出せない場合でも、第三者機関が中立的な立場から助けてくれます。

休職制度の活用

一定の条件を満たせば、休職制度を利用して心身を回復させることができます。

まずは「診断書」が必要になるので、医師への受診が第一歩です。

診断書の取得と申請フロー

精神的疾患の診断が出た場合、会社への提出用診断書を用意してもらいます。

休職の申請は人事部門を通じて行い、数週間〜数ヶ月の休職期間が設定されることが一般的です。

休職中の金銭支援制度

健康保険組合から「傷病手当金」を受け取ることで、給与の一定割合が支給されます。

また、失業保険の特例対象になることもあるため、ハローワークでの確認も忘れずに行いましょう。

言語聴覚士を辞めたいときは冷静な判断を

「辞めたい」と思うのは自然なことです。

しかし、感情だけで決断するのではなく、冷静に自分の状況と向き合い、情報を整理することが大切です。

続ける道も辞める道も、それぞれに正解があり、どちらを選ぶにしても「納得して決めた」という事実が心の支えになります。

悩みや不安を一人で抱え込まず、周囲の力を借りながら、自分らしい生き方を見つけてください。

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